自己評価低めの彼女は俺の自信を爆上げしてくれる。

茜琉ぴーたん

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7月

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 7月、千早ちはや知佳ちかのアパートへ移り住み…大きくなったベッドで彼女を丸ごと愛しては心身ともに満たされる生活が始まった。

 とは言え千早のポリシーはやはり変わらず、セックスのお誘いは事前申告制でだらだらと過ごしたりはしない。

 スる時はスるシない時はシないできっちり区切ってを続けている。





「チカちゃん、これ今月分の家賃。食費もまとめて渡しとくわ」

「え、いいですよ、まだ向こうを引き払ってないですし」

 さて同棲するにあたりはっきりさせねばならないのは家事と資金の分担だ。

 家賃は折半で食費は千早持ち、料理は知佳でゴミ出しは千早…というところまでは決まっている。

 千早は6月にこれまでのアパートを退去する旨を管理会社へ伝えたので契約満了は7月末、つまりは住んではいないのだが向こうの家賃を払っている状態だった。


「二重に徴収するのは忍びないです、来月からでいいです」

「いや、住まわしてもうてんねんから出すよ、食費も」

「うーん、もったいないです」

「…まだ舐めてんのか…ちょっと待ってて、」


 どうやらいまいち財力の心配を払拭しきれていない様子、千早はクローゼットの奥から貴重品入れのファイルを持ち出して昼食準備中の知佳の前に開示する。
 
「これが預金通帳、先月の給与明細」

「……は、い、」

「ここ見て、毎月の給与がこれくらいな。支出はこれくらい、まぁ家賃と単車の維持費が大きいな…あとは飲み食いがほとんどよ。残高はここ、昨日記帳したばっかりやから」

「はい、はい…」

それは額面で知佳の倍はある月収の証、定期預金もコツコツしているし不審な引き落としも無い。

 貯金額は国産普通車をキャッシュで買ってもお釣りが来るくらい、すぐのすぐ困窮するような状況ではなかった。

「稼いでんねん、俺」

「よく分かりました…ならありがたく受け取ります」

知佳はお札の入った封筒を受け取り、ぺこりと頭を下げて戸棚へと片付ける。

「夫婦みたいやな」

「ふふ…暮らしていく上で気になることは指摘していきましょうね」

「うん…俺はあんまり裏表あれへん方やけど…嫌なところは言うて、俺も…イライラしてたら口悪なるかもしれへん」

「私の卑屈さに腹が立ったり?」

「んー……あるかも分からんな、行き過ぎた謙遜けんそんはやめよ」

 けれど奥ゆかしいのも知佳の魅力のひとつな訳で、千早は

「…いや、謙遜はええわ…でも過剰にへりくだるんは直してこ」

と言い直してペアマグを座卓へと運んだ。





 そして食後。

「メシは美味いし同棲サイコーやな……うん?」

量は減ったがまだ完全には断てない煙草、千早は灰皿を持ちベランダへ出たところで床に積まれた冊子の束を見つける。

「チカちゃん、これ…本?置いてあるんはゴミ?」

「はい、いずれ捨てるのでそこに」

 基本が単身者向けの住宅なので収納スペースもそこそこ、知佳は千早の荷物を入れるために溜め込んだ私物や着ない洋服を一掃して場所を空けていたのだ。

「悪いね、俺の服とかが増えたから…ふーん…いやこれ卒アルちゃうの?こんなとこ置いてんの?」

「はい、いずれ捨てようかなって…特に思い入れも無くて」

 さらりとそう答えるもんだから千早は面食らって、厚い背表紙と彼女を交互に見て吸おうと出した煙草をポケットへ仕舞い込む。

「いや、思い出やん…でもアパートに持って来てんねや、こんなん普通実家に置いて……あ、」

 千早はそれらをいまだに実家に置きっぱなしにしているし、もし所帯を持って家でも建てれば持ち出しても良いかと思っていた。

 普段見返すものでもないしかといって処分するようなものでもない。

 まだ20代の知佳がそう遠くない実家からわざわざアルバム類を持って出る…それは親との兼ね合いなのか、ふと彼女の親との関係を思い出して閉口する。

「生家はもう無いので、全部持って出たんです。『老後に片付けの手間をかけさせるな』とのことだったので。まぁ卒業してだいぶん経つし地元に戻る気も無いし用途も無いし…連絡を取ってる友人ももういませんし、捨てても問題ないかと」

「ふーん…まぁ確かに俺も見返したりせぇへんし実家の庭のプレハブの中にぶち込んであるわ…ほな、ちょっと見せてよ」

「…恥ずかしいです」

「ええやん、恥ずかしいとこ見して♡」

語弊ごへいがある」
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