自己評価低めの彼女は俺の自信を爆上げしてくれる。

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
68 / 85
7月

67

しおりを挟む

 7月、千早ちはや知佳ちかのアパートへ移り住み…大きくなったベッドで彼女を丸ごと愛しては心身ともに満たされる生活が始まった。

 とは言え千早のポリシーはやはり変わらず、セックスのお誘いは事前申告制でだらだらと過ごしたりはしない。

 スる時はスるシない時はシないできっちり区切ってを続けている。





「チカちゃん、これ今月分の家賃。食費もまとめて渡しとくわ」

「え、いいですよ、まだ向こうを引き払ってないですし」

 さて同棲するにあたりはっきりさせねばならないのは家事と資金の分担だ。

 家賃は折半で食費は千早持ち、料理は知佳でゴミ出しは千早…というところまでは決まっている。

 千早は6月にこれまでのアパートを退去する旨を管理会社へ伝えたので契約満了は7月末、つまりは住んではいないのだが向こうの家賃を払っている状態だった。


「二重に徴収するのは忍びないです、来月からでいいです」

「いや、住まわしてもうてんねんから出すよ、食費も」

「うーん、もったいないです」

「…まだ舐めてんのか…ちょっと待ってて、」


 どうやらいまいち財力の心配を払拭しきれていない様子、千早はクローゼットの奥から貴重品入れのファイルを持ち出して昼食準備中の知佳の前に開示する。
 
「これが預金通帳、先月の給与明細」

「……は、い、」

「ここ見て、毎月の給与がこれくらいな。支出はこれくらい、まぁ家賃と単車の維持費が大きいな…あとは飲み食いがほとんどよ。残高はここ、昨日記帳したばっかりやから」

「はい、はい…」

それは額面で知佳の倍はある月収の証、定期預金もコツコツしているし不審な引き落としも無い。

 貯金額は国産普通車をキャッシュで買ってもお釣りが来るくらい、すぐのすぐ困窮するような状況ではなかった。

「稼いでんねん、俺」

「よく分かりました…ならありがたく受け取ります」

知佳はお札の入った封筒を受け取り、ぺこりと頭を下げて戸棚へと片付ける。

「夫婦みたいやな」

「ふふ…暮らしていく上で気になることは指摘していきましょうね」

「うん…俺はあんまり裏表あれへん方やけど…嫌なところは言うて、俺も…イライラしてたら口悪なるかもしれへん」

「私の卑屈さに腹が立ったり?」

「んー……あるかも分からんな、行き過ぎた謙遜けんそんはやめよ」

 けれど奥ゆかしいのも知佳の魅力のひとつな訳で、千早は

「…いや、謙遜はええわ…でも過剰にへりくだるんは直してこ」

と言い直してペアマグを座卓へと運んだ。





 そして食後。

「メシは美味いし同棲サイコーやな……うん?」

量は減ったがまだ完全には断てない煙草、千早は灰皿を持ちベランダへ出たところで床に積まれた冊子の束を見つける。

「チカちゃん、これ…本?置いてあるんはゴミ?」

「はい、いずれ捨てるのでそこに」

 基本が単身者向けの住宅なので収納スペースもそこそこ、知佳は千早の荷物を入れるために溜め込んだ私物や着ない洋服を一掃して場所を空けていたのだ。

「悪いね、俺の服とかが増えたから…ふーん…いやこれ卒アルちゃうの?こんなとこ置いてんの?」

「はい、いずれ捨てようかなって…特に思い入れも無くて」

 さらりとそう答えるもんだから千早は面食らって、厚い背表紙と彼女を交互に見て吸おうと出した煙草をポケットへ仕舞い込む。

「いや、思い出やん…でもアパートに持って来てんねや、こんなん普通実家に置いて……あ、」

 千早はそれらをいまだに実家に置きっぱなしにしているし、もし所帯を持って家でも建てれば持ち出しても良いかと思っていた。

 普段見返すものでもないしかといって処分するようなものでもない。

 まだ20代の知佳がそう遠くない実家からわざわざアルバム類を持って出る…それは親との兼ね合いなのか、ふと彼女の親との関係を思い出して閉口する。

「生家はもう無いので、全部持って出たんです。『老後に片付けの手間をかけさせるな』とのことだったので。まぁ卒業してだいぶん経つし地元に戻る気も無いし用途も無いし…連絡を取ってる友人ももういませんし、捨てても問題ないかと」

「ふーん…まぁ確かに俺も見返したりせぇへんし実家の庭のプレハブの中にぶち込んであるわ…ほな、ちょっと見せてよ」

「…恥ずかしいです」

「ええやん、恥ずかしいとこ見して♡」

語弊ごへいがある」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。

藍沢咲良
恋愛
同じ中学校だった澄麗、英、碧、梨愛はあることがきっかけで再会し、定期的に集まって近況報告をしている。 集まるときには常にドリンクバーがある。飲み物とつまむ物さえあれば、私達は無限に語り合える。 器用に見えて器用じゃない、仕事や恋愛に人付き合いに苦労する私達。 転んでも擦りむいても前を向いて歩けるのは、この時間があるから。 〜main cast〜 ・如月 澄麗(Kisaragi Sumire) 表紙右から二番目 age.26 ・山吹 英(Yamabuki Hana) 表紙左から二番目 age.26 ・葉月 碧(Haduki Midori) 表紙一番右 age.26 ・早乙女 梨愛(Saotome Ria) 表紙一番左 age.26 ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載しています。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)

しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。 良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。 人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ? 時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。 ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。 気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。 一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。 他作品で出ているサブキャラのお話。 こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。 このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)? 完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

処理中です...