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6月
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しおりを挟む「……ひひっ、スーツギャルが運転してんの萌えるわ」
「…ドウモ」
今日運転するのも知佳で、座った分捲れ上がったスカートから覗く太ももを助手席の千早はニタニタと眺めつつ家具屋を目指す。
「ベッドは…ダブル?」
「せやね、あと皿も新調せぇへん?」
「仕切りが付いたのが楽で良いですね」
「ん、任せるわ」
洗い物を減らしたい知佳の意向を尊重する千早は、もう食器に関しては文句は付けない。
まぁ以前のように惣菜のパックをそのまま使おうもんならまた喧嘩になるかもしれないが。
「思ったことは言って、隠し事は…ほどほどに。ひとりの時間も大切に…したいですね」
「うん、無理に暴いてもええ事は無いもんね」
「?えぇ……まぁ二人に関わることは隠さないようにします」
「ん、頑張ろ」
「はい、」
ふふと笑う知佳の口元からは尖った八重歯が覗き、真横でそれを捉えた千早はどうにも切なくてもったいなくて目を覆う。
・
家具屋では下調べしておいたベッドを無事注文することができ、シーツやベッドパッドも二人の好みのデザインで揃えた。
「そういや仕切りがあると、窪みの数だけおかずを作らないといけませんね」
「空でもええんちゃう?」
「いえ…これは自分への挑戦というか…ノルマですね」
「適度にね…ひひっ」
これまで使っていたものよりひとつ仕切りが増えた皿、色違いのそれをカゴに入れた知佳は奮起するもビジュアルにそぐわなくて千早目線だと可笑しくて仕方ない。
不審者顔の自分とスーツのギャル、異彩を放つ二人は無事に買い物を終えてスーパーで夕飯の買い出しをして、車で千早のアパートへ向かった。
「テキストと…この辺か…載せるわ」
「はい、随分とキレイになりましたね」
もうほとんど物が無くなった部屋はがらんとしてゴミ袋と薄い布団とカーテンが残るだけ、そのカーテンも「置いて行って良い」と大家から言われていて外さずそのままにしておくらしい。
「洗濯機も2月に買うたばっかりやしな、聞いたら『要らんなら置いてって』言うし…処分も金掛かるしな、置いてくねん」
「えらく大らかな大家さんなんですね」
「んー、『家具家電付き』言うて新しい入居者釣るねんて、家賃もちょい上乗せしてな、ひひっ」
「なるほど」
小型の冷蔵庫は処分、電子レンジは小型家電としてゴミの日に既に回収済み、あと数日分暮らす最低限の生活用品だけ残して綺麗に片付いた。
さて帰るかと知佳は鍵を入れたポケットを上から探り、しかし肝心の千早が付いて来ないので「はて」と寝室にしていた部屋へ引き返す。
「…千早さん?忘れ物…?」
「ん、オッケーよ」
「なに、え、」
千早は畳んであった敷布団を広げて枕を置いて、
「よーし…ギャルちゃん、こっち来ぃや」
と知佳を呼び込もうとする。
「え、うちで…じゃ?」
「ムラムラしてもうてね…俺の城で…シときたい」
「えぇー…えー…あの、も、持ってます?」
「ゴム?持ってんよ」
「あ、そう…」
夜にすることを昼間にしたって大した問題ではない、それでもこの部屋の設えに知佳はいつになく緊張してしまう。
「(……デリヘル、みたい…?)」
置いて行く黄色のカーテンは遮光性が低い普通の布と変わらないような素材で、閉め切ったら太陽に透かされて部屋全体がぼんやりと黄色く染まる。
古びた畳と薄い布団に煙草臭い枕、ニタニタと笑って待つ人相の悪い男がベルトを解き始めるので知佳は部屋へ入り台所との間の引き戸を閉めた。
「デリヘルみたいやな、呼んだことはあれへんけど」
「……」
ロマンチックとは言い難い男の様相と言動、そして生活感溢れるこの部屋。
所帯じみた…場末感というか、知佳は底辺な感じを今さらだがひしひしと受ける。
伏し目がちに近寄って対面に座れば、知佳の顔色に黄色が加わってセピア色になって、千早はなんともノスタルジーというか卒業アルバムの個人写真などを思い出してしまった。
「別にギャルを演じろとは言うてへんよ、見た目だけや」
「は、い…」
「笑うて、」
「…ん」
「可愛い」
八重歯が見えたら閉じ込めるように口で口を塞ぐ、知佳だって歯を見たい彼の意向に気付いていたからそのように笑ったので、ぐんと接近した千早の歯とぶつかってカチンと陶器に似た音が鳴る。
「痛ぁ」
「…ずまん…」
「あはは、キス初心者みたい」
「せやな……んー…可愛い、なぁ高石に見せられたあの写真の中で、他に目もくれずチカちゃんに照準を定めた俺の選球眼、すごない?」
ストライクだけにね、知佳はそこまで上手くもないかと言葉にはせず
「よく分かりませんが…まぁあの中で彼氏居ないの私だけだったし」
とマッチングするのは消去法で自分だけだったと安定のネガティブを発揮した。
「それは高石にも聞いた。にしてもよ、一目惚れよ?フリーやからって選んだんやない、こらぁ運命と違うか?」
「…どうでしょう」
「…まぁええわ…ひひっ…その化粧、たぶんどろどろになんで♡」
「やだなぁ」
恥ずかしさを誤魔化そうと知佳は自分から敷布団の上へ移動し、ジャケットのボタンをひとつふたつと片手で外していく。
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