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6月
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しおりを挟むそれから約半月、千早は部屋を片付けつつ資格勉強にも精を出していた。
アパートの退去は来月末だが新居が決まったのだからここに独り居続ける理由も無い。
不要物は棄てて、仕事に関わる物は会社に置かせてもらうことにして、休みはもうほぼ知佳の部屋へ入り浸っている。
とはいえ勉強は落ち着いた環境でなければできない、案外畳と尻との相性が良かったのだなと千早は固いフローリングに座る度に実感していた。
「千早さん、そこじゃなくてカーペットの上に座って下さい」
「んー、固い方が目が覚めるんかなぁて…いや、痛いだけやな…よいしょ」
「座椅子とか置きましょうか」
「物は増やすと窮屈やからええよ」
千早は知佳からコーヒーを受け取り、座卓へ置いて彼女へ手招きして隣に座るよう促す。
ここに来た時は勉強はせずに恋人との空間を最大限に楽しむ、引っ越せばこちらでせねばならないが今くらいは彼女を堪能しておいて良いだろう。
「家賃は折半やな、食費は全額出すから料理は任すよ、俺はようせんから。その代わりゴミ出しは俺が行く」
「はい」
「…正式に移り住むのは来月からで……そのー、親御さんに話付けた方がええかな」
「え、………いやぁ…勝手にして良いと思いますけど」
やはり親にいい思いが無いのか知佳の顔が瞬時に曇り、ため息混じりにそう吐き捨てた。
千早としては、面倒な人には最低限でも義理を通しておかねば後々が余計拗れると考えている。
なので早いうちに親へ面通しをしておきたいのだが彼女は今ひとつ乗り気ではない。
まぁ成人した大人だし反対されたところで従う必要もなし、ただ不安材料をひとつでも無くして幸せにしてあげたいと気を揉んでいる。
「そう…まぁ追い追いな、よーし…したら…ベッド見に行こか」
「はい…」
「んで戻って来てメシ食うて…エッチしよ、ええ?」
「あ、」
薄黒くなった心はすぐさまピンクに塗り替えられて、四白眼が視界を奪えば言葉も無く世界は二人だけのものになる。
同意を示すキス、夜への期待を込めたその口付けに知佳は興奮よりも安堵の気持ちを得ることが増えてきた。
パートナーとしてリーダーとして頼れる存在…同棲の先の未来は当然結婚で、尚早かとも思うが互いに支え合い暮らしていきたいと日に日に想いも増している。
もうすれ違いも隠し事も嫌だ、親のこともいずれかは、でもまだこの甘ったるい生活に浸りたいと…目を開けて糸を引く唇を拭う。
そして知佳は
「望むところです」
と笑った。
コーヒーを飲み干した千早は
「ひひっ…さぁて…あとは生活用品引き揚げるくらいやし…テキストもこっち運ぼかな。家に寄って拾うて帰ろ…」
まで言うと、ふと脳裏に勉強する自身の姿が浮かぶ。
そしてその傍には静かに見守る知佳、監視されると緊張するが応援してもらえればモチベーションも上がる気がした。
「…チカちゃん、俺が勉強してたら、応援してくれる?」
「応援?うるさくないですか?」
「声援もええけど、ご褒美的なことよ」
「ごほうび……あの、」
「ん?なんか想像した?」
応援と聞けば知佳がまずイメージしたのはチアガールで、そのテンションと露出度の高い衣装、何より仕入れや着替えなどの準備段階を想像するだけで羞恥メーターの針が上限まで振れる。
「あ、いえ、」
「女教師とかどう?」
「そ、れなら……いえ、恥ずかしいので…んー…」
「(揺れてんなぁ…かわい)」
知佳が恥ずかしいと思うのは『その役になりきる自分』、そしてそれを千早に見せることだ。
「なりきってんなぁ」などと感想を言われればその時点で素に戻ってしまい期待に添えなくなるだろう。
しかし先月彼女は『お店のお姉さん』という体でのプレイを経験済みで、しかして途中から導入するのと最初から準備して挑むのとでは覚悟が違う…と葛藤している訳である。
「あの、わざわざ買いに行ったりするのは恥ずかしくて、いかにもみたいな衣装も苦手で、だったらむしろ裸の方が楽なくらいで」
「チカちゃん、エッチの話してる?」
「え、そうじゃないんですか?」
「ちゃうよ、見守ってほしいいう話……あぁそう、コスプレエッチ、シとく?」
「違う、その前の話題と混じっちゃっただけっ…コスは無理ぃ、」
紅く紅く染まった頬を手で隠して冷やして、知佳は迫る千早から目線を逸らした。
「せや、ギャルして、スーツでギャル、買わんとできるやん♡」
「やらぁ…」
「ギャルの教師なぁ、萌えんなぁ♡」
「やだ…」
「楽しみやなぁー……なぁチカ?」
会社の集まり如きでできるのだから恋人の前でできないはずは無かろう。
反発すればそちらから攻めようと思っていた千早だったが、
「っ………あ、あんまりっ…期待、しないで…」
と知佳がすんなり受け入れたために
「そう?可愛いのに」
と目を細めてわざと口を歪めて笑う。
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