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6月
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しおりを挟む「…やっぱ臭い?」
「んー…はい、タバコと…加齢臭かな」
「遠慮せぇよ」
お泊りを決めた夜、薄っぺらい煎餅布団は今日も煙草の匂いが染み付いていて、汗ばむ季節だからか千早の体臭も当然入り混じって男の匂いがした。
「ごめんなさーい」
「…ええわ……しかし…そろそろここも引っ越ししよかな…」
「ご不便ですか?」
「んー…立地はええねんけど…そろそろベッドがええわな。足腰に来るし…チカちゃんのベッドに慣れるとうちの布団は寝にくうて敵わん」
ふた部屋あるのにどちらも畳敷きの和室だったために、千早はどうも脚の押し型のつくベッドが置けなかったらしい。
退去時に敷金が返ってこないのも嫌だし畳代を追加請求されても嫌だし、何より畳の上にそぐわない家具を設置することに違和感があり布団を使い続けているそうだ。
「…なら……いえ、」
「なに、チカちゃん♡一緒に住む?」
「え、んー…んー…」
「あ、ほんまに?」
「冗談ですか?すみません、一瞬本気にしちゃって」
図星を突かれたものの烏滸がましかったとしょんぼりする。
一筋縄ではいかない自己評価の低さに振り回されているのは彼女自身も同じだった。
「ちゃう、本気……チカちゃん、同棲…しよか」
「…はい、あの…私でよろしければ…」
「チカちゃんがええねん」
「恐れ多いな…ふふ…新しく借りますかね、それともうちに来ますか?」
「そっち、同居OKなんやろか」
あぁだこうだと話し合いは日付が変わって知佳の瞼が落ちて瞳を隠すまで続いた。
もう腫れは引いたもののこの目をえらく濡らしてしまったなぁと千早はしんみり見つめる。
「(…上手く…いかせる。離したない)」
千早は明かりを消してスマートフォンで知佳宅の管理会社の電話番号を調べてから、彼女の側頭部に顔を埋めて安眠した。
ちなみにその管理会社あてに「敷地内で大声で叫ぶ不審者が出た」と連絡が数件入り、住民用掲示板に注意を促す貼り紙が出たりしたのだが…千早は見て見ぬふりを貫くのだった。
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