自己評価低めの彼女は俺の自信を爆上げしてくれる。

茜琉ぴーたん

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6月

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「あかん…やってもうた…イライラを物に当ててチカちゃんにも当たってもうた…終わった…」

『♪~』

知佳を追い出してから1時間、布団で小さくなっていた千早の耳に玄関チャイムの音が届いた。


「なんや……ぅわっ!」

 彼女が出て行ったきりで施錠してなかった扉を開けて勝手に入ってきたのは美月と高石で、

「千早さぁん、こんにちは♡上がるわよ」

「おっす」

と口々に挨拶をしてずかずかと上がり込まれる。

「なんやの…姉さん…高石も…」

「聞いたで、チカちゃんになんや怒ったんやて?」

「チッ……すーぐ告げ口しよる…」

「……なんも失礼な態度なんかとられたこと無いやろ、何があかんかってん?」

これだから女はとでも言いたげな顔にカチンときて言い返しそうな美月を抑え、高石が切り込んだ。

「……日頃からちょっとずつ…下に見られてる感じがしててん…俺は勉強もでけへんし物も知らへんし…気ぃ遣われてんのがえらい鼻につくようになって…」

「ふーん…」

「……、」

「……、」


 一応「全部聞き出すまでは黙っておいてくれ」と高石から頼まれていた美月は静かに畳へ座っていたが、あまり進まない話に痺れを切らし部屋をキョロキョロと見回した。

 すると隅に洋服で隠された冊子を見つけ、目を止める。

 背表紙から察するに雑誌ではなく書籍か、美月は無作法だと思いながらも足を崩して手を伸ばし、上の服を払い除けるとそれはやはり分厚目の参考書的なものだった。

「……千早さん…これ、勉強してるのね?」

「おい、勝手に…」

「難しそうな……今より上の資格ね?もしかしてこれにつまずいてたの?」

「やかましな…」

 今現在保持しているものの上級資格、取得すればできる作業が増えて扱える仕事が増える。

「…取っときゃ仕事の幅も広がるし…大将社長も助かるやろし…社員ももっと増やして…その…」

「うん、従業員も生活が楽になるわな」

「せやろ…俺かて色々…会社のこと考えてんねん…しやけど難しうて…実技はともかく座学があかんねん…人の倍くらい読まな頭に入らへん…」

 肩書きだけとはいえ常務なのだからそれなりの責任を持って働きたいと思う反面、長年だらだらと先延ばしにしていたもので…知佳という恋人を得て少し先の未来を考えたことでやっと重い腰が上がったのだ。

 しかしこの春から始めた資格勉強はどん詰まり、苦手意識がありダメで元々で始めたものだから誰にも打ち明けられず相談もできなかった。

「せやったら人の倍するしかないやんか…俺もぼちぼち、大型特殊とかフォークリフトとか取ろうか思うてるよ。重機もな、」

「そうなん?」

「そらデカいもん担ぐんは若いうちしかできひんやんか…そのうち…所帯持つかもしれへんしな、なぁミーちゃん」

「あら」

こちらも先を考えている、高石の具体的なプランに美月はパァと顔色を良くする。

「千早、そのな…お前は馬鹿にされたって思うかもしれへんけどな?チカちゃんは『配慮』してくれてんねん。クイズでお前が答えられへん思うても揶揄からかうわけちゃうやろ?分からんなぁ言うて演技してくれてんねやろ?お前、チカちゃんの打った伝票は分かり易い言うてたやんか。俺らが読まれへんような字を使わずに、皆が読める文章にするいうんは『配慮』や。ユニバーサルデザインよ…知らんなら調べろ。動機はちゃうかもしれんけど、結果的にええように回ってるやろ?」

 交際する前に気付いて本人に告げたこともある、彼女が入力した伝票の補足欄は工事内容を限られた字数に詳細かつ端的にまとめてある。

 正式には漢字の単語も半角カナや記号で工夫して詰めて読みやすくしてあって仕事がしやすかった。

「……」

 確かにそうだ、勝手にコンプレックスをつかれたと被害者意識を持って突っ掛かったのは悪かったな、いきなり激昂げっこうしてさぞかし怖い思いをさせただろう。

 彼女がしてくれていたのは思いやりで、こちらの苦手意識を刺激せずに転がしてくれていたのに…食ってかかってあろうことか人格攻撃までしてしまった。
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