自己評価低めの彼女は俺の自信を爆上げしてくれる。

茜琉ぴーたん

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6月

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「良くないな…」

自分は謙虚で控えめな人間だと思っていた。

 でも下を作ることで底辺じゃないと安心していたのか、過去を思い出しながら失礼なことが無かったかと確認した。

 そういえば最初の上司には『いつまでも学生気分でいるんじゃねぇ』と世間知らずを叱られた。

 前センター長の怒声も含め、働く上での様々な事がつらつらと思い出される。

 堪らなくなった知佳はスマートフォンを手に取り、本日休みの盟友・美月みつきへ連絡を入れた。


『もしもし…どしたの?』

「ミツキちゃん…あのさ、私って、配送の人とかに失礼な態度とってるかな、どうかな?」

 美月は不必要なお世辞は言わないタイプだし望めばビシッと指摘もくれるだろう、内心ドキドキしつつ尋ねる。

『え?知らないけど……関わりたくないみたいなオーラは出てたわよ?前は、前はね。千早さんと仲良くなってから柔和にゅうわになったと思ったけど…どうしたの?』

 やはりそうだったか、壁を作ってしまっていたものな、

「ち、千早さんにっ……『俺のこと見下してるだろ』って……言われ、て……無意識に……馬鹿にして…たのかなって…怒られちゃっ…て…」

本題を切り出せばおさまっていた涙が再び込み上がる。

『ん、詳しく教えて?』

 自宅でまったりと過ごしていた美月は知佳の泣き声に驚き、ゆっくりと内容を聞き出す。

 同じく美月宅に居た高石たかいしはちょいちょいと彼女に手招きされて、耳を受話部分に付けてふむふむと揃って頷く。


『なるほどね、うん、クイズとか、うん、うん…なるほど、』

尋ねながら補いながら、高石も助言しながら美月は概要を把握した。

『えぇ……うん、意識的にじゃなかったのよね、それは見てて分かるわよ。前は恋人は「最低でも大卒」って言ってたけど、好きになっちゃえばどうでも良かったものね、うん……見下すというか…配慮してたのよね、理解されにくい事を噛み砕いて伝えるのは大切。「分からないだろう」って思って敢えて難しい言葉使うのは意地悪よ。でも思いやりというか……うーん、待ってね?……』

言葉での説明を限界に感じ、美月はテレビ通話のボタンをタップし高石と並んで画角に収まる。

「ん?……あ、」

音質が変わったので不思議に思いスマートフォンを離せば知佳の画面には『応答』か『拒否』かの文字、前者を押せば泣き腫らした自分の顔が小窓に映る。

 しかもそれを高石にまで見られたとあって知佳は更に困った表情になってしまった。

『ご、ごめんチカちゃん、俺も隣で聞いててん…あの…助言というか……千早なぁ、ちょーっと学歴コンプみたいなんあるかもしれんな』

「学歴…コンプ…勉強…」

知佳の脳裏には千早の部屋で見た資格テキストが思い起こされる。

『俺もアイツも工業卒やねんけど、資格取ったりすんのに実技はともかく筆記の方に結構苦戦してきてんねん。俺は割と理数系得意やねんけど…千早はちょっと…掴むまでに時間かかんねん。しやから…なんか溜め込んでた事があったんかな」

「あ、あの、千早さん、何か勉強してるのかも、資格とか、分かんないけど」

『へぇ?聞いてへんけど…なんや最近付き合い悪いし機嫌も悪いよな…聞いてみよか……あ、それとな、俺もムラタ長いけど、チカちゃんの対応で嫌やなんて思うたことあれへんよ。配送員の間で嫌な噂も聞いたことあれへん。むしろ関わること自体少なかったしな?うん……掻い摘んでしか聞いてへんけど…チカちゃんが自信なくすことは無いと思うなぁ、』

『だそうよ、千早さんに何があったのか聞いてみないと分からないけど…タカちゃんに探ってもらってもいいし…そうする?』

 高石が知る限りは自分は粗相はしてないらしい、その点においては少し安心するも1番の懸案の解決策が見つからない。

 話し合いも必要だが今は少し離れていたい思いが強く、知佳は

「うん……でも軽くでいいよ。自分が周りを軽視してたのは本当だと思うから…ちょっと、自分も反省したいの」

と、先ほどよりは笑顔で画面の美月達を見つめた。

『そう……あんまり思いつめないでね?あたし、チカちゃんに失礼なんて感じたこと無いわ、大好きよ♡』

『俺もやでー』

「ん、ありがとう…ごめんね、お休みのところ……、ばいばい」


 代わる代わる励ましてくれた睦じい2人が羨ましい、心からそう思い再びシートへ体を預ける。


「ふー……勉強…か…」

 思うように学習が進まずカリカリしているところに先月の泥棒疑惑、そして積もり積もった不満が一気に溢れた…理解できるところもあるし理不尽な怒りと反論したい部分もある。

 自分にできないことを習得している者への称賛は当たり前にするものだろうが、それすらも「侮ってるのか」ととられてしまうのだからどうにもしようがない。

 ただ分かることは、彼はいつになくナーバスでブルーで情緒不安定で、知佳も引く程に卑屈になってるということだ。

「そういえば…千早さんもそこまで自信家って感じじゃないかも…案外小心者なのかな…」

交際を始めてそれなりに経つのに今更感、まだまだ知らない部分が出てくる。

 車内温度が上がってきたので扉を開け、シートを戻してやっと地面へ足を付けた。
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