自己評価低めの彼女は俺の自信を爆上げしてくれる。

６月

53

「すみませんでした、以後気を付けます、失礼します…」

ロビーを挟んで向こう側の配送工事センターから、消沈した顔の男性社員とフロア長が連れ立って出てくる。

　２人はそのまま壁際の階段へ、知佳ちかは商品管理室の窓から室長の芳井よしいとただならぬ空気の隣室の様子を窺っていた。


「あれ、白物の新人くんですよね、何かあったんでしょうか…」

「うん、明日の配送枠があれへんのに、さっき無理に入れてもうて怒られたみたいよ」

「あー…あるあるですね…打ち替えかな、伝票出ますかね」

　１日に配送に行ける件数には当然だが限りがあり、地域や商品の大きさ・量でトラック一台当たりの仕事量は変化する。

　大型の冷蔵庫や洗濯機なら人員は２人要るし、１件にかかる所要時間もまちまちだ。

　夕方の翌日準備ではうまく調整されたものを各社分担してアポイント電話を入れていくわけである。

「どやろ…センター長は落ち着いてはるし…メール画面更新してみて？」

「あ、はい………来てますね、日延べ……変更かけときます」

「オーケー」

どうやら先に日付変更の処理をして謝罪しに降りて来ていたのか、明日の配送はそのままで増減は無いようだった。

「では、翌日分伝票は完了です……新人くん、あんまり落ち込まなければいいけど…」

「どうやろね？配送センターの仕事も理解してもらわなあかんし…ね、」

「耳が痛いです……私も同じことしたことあるので…ガッツリ叱られました」

知佳はしょっぱい顔をして、伝票入力画面へと戻る。


　それは彼女がまだ新人で売り場にいた頃のこと。

　締め時間が過ぎて枠が無いのに端末の画面上で翌日の日付を入力し販売してしまい、客に変更依頼をかけたり諸々の調整をしてもらったりとてんやわんやした。

　当然配送センターからはお叱りを受けたし、当時のセンター長から「お前ら端末のデータ見てポンポン売るだけだろうが、その商品を運ぶのは人間なんだぞ！」をかなりキツい方言で怒鳴られもした。


「うん、なかなか分かれへんよね」

「はい…ここに降りてきて、やっと分かった感じです…お恥ずかしい」

「みんなせやで、ん、よーし…倉庫整理してくるわ」

「はーい、いってらっしゃい」


　物を作る者がいてそれを売る者がいて、運ぶ者がいてそれらをスケジューリングする者がいて。

　量販店の花形である営業の地位にいて裏方を軽んじていた過去、知佳は暗黒歴史を思い出してまたしょっぱい顔をする。