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5月
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しおりを挟むそこから家までの記憶はあまり残っていなくて、彼が次に憶えているのは見慣れた部屋の天井とカーテンを透かして光る朝日だった。
「喪失って…こういうこととちゃうと思うねんなー…」
童貞喪失、決して惜しい物を失くしたわけではないのだがぼんやりと虚ろで寂しい気持ち。
何故だかその日の朝は母親の顔を見られなかったという。
おめでたいはずなのに後ろめたい、もっと溌剌として帰って来られると思っていたのに想像とは違った。
それは自分の問題なのか、それとも相手との問題なのか。
千早は出勤して事務所で準備をして、同い年の先輩社員へ話しかける。
「……なぁ、哲っちゃんって童貞?」
「なんやねん、童貞様やけど?」
「…フーゾクとか行かへんの?二十歳越えたやろ」
「んー…金払ってまでしたないねんな…彼女は欲しいけどな、うん」
彼はそう言って工程表のファイルを閉じて千早をチラと見た。
「…しやんな、しやんなぁ!」
「なによ」
「ううん、俺も彼女作ろ」
………
「…みたいなことよ、その後彼女作って…まぁ燃えたよね、好きで付き合うわけやから。しやけど前に言うた通り求め過ぎてアカンかってんな」
それなりに好きで交際した女性、素っ気ない言い方をするが振られた当時は彼は数日に渡り高石を呑みに誘い、毎晩泣き濡れていたという。
「ほー…」
「彼女おれへん間はフーゾクも行ったりしたけど…なんや虚しい。体だけやったらオナホール買うて家でしてた方がなんぼか気持ちええし安上がりやし」
「ふーん?」
「しやから…チカちゃんとここまでできてんのは収穫よ、ラッキーよ」
気持ちが通じ合って身体も合って。
性欲は最盛期よりは落ちたし自制できるほどに歳も取ったし、自分を受け入れてくれる女性と出会えたことは奇跡に近い運命だと…それくらいに千早は尊いことだと捉えている。
「うん…」
「なに、眠い?」
「いえ…元カノ話ならまだしも…フーゾク体験記はやっぱり気分の良いもんじゃありませんね」
「しやから言うたやん…でも今が幸せ、っちゅう話よ」
「うん…」
やっぱりプロの技と比較されてないか、どれくらいの頻度で通ってたのか。
聞けそうで聞けない疑問は知佳の心に溜まっていって、不満がそのまま表情にも出てしまっていた。
「…なに、怖い顔して…ん?やきもちか」
「………そうかも」
「ひひっ…ん、可愛いやんか、2回戦目行こか♡」
「あ、早い、」
まだまだ元気な千早は、相変わらずの小休止だけで次戦への準備にかかる。
起ち上がりも早いので淫語と唾で湿らせて即挿入、小気味良く突き上げては喘ぐ知佳をニタニタと見下ろした。
「実際、どう、なんでしょう、」
「なにが」
「プロの、方と、私、」
顔だとか声だとか、触り心地や締まり具合、最中ならペテンもできないだろうと知佳は思い切って尋ねてみる。
もしどうしようもなく自分が貶されたとしても浮いた頭なら忘れてしまえそうだ。
それに少しは彼を満足させているのではないかと…彼女なりの言い方だと、烏滸ががましいけれど千早に愛されている自負があったのだ。
「…比べることやあれへん、まぁでも…好みが合致してて、ワシのちんちんで爆イキしてくれるしワシの顔でイきよるし、」
好みのスポットの周りから徐々にそこへ攻め入れば、知佳は
「ひあッ♡」
と「そこ、アタリです」とばかりに全身と声でおかわりを要求する。
「…チカちゃんは…最高に合う女やな、チカちゃん的にはどやの、ワシのちんちん、3本の中で何位や?」
「い、ぢ、」
「あア?」
「1位ッ♡いぢばんッ、い、い♡気持ち、いいッ♡」
「せやろな、うん、一番やなァ、チカぁ♡」
行為中の頭で繰り出す「好き」「愛してる」の正誤はあまり問題ではなくて、沸いた感情と身体では例えそれがイマイチでも最上のセックスだと勘違いできたりする訳で。
そんな保険を張りつつも、知佳はやはり本心で
「諒介ざんがァ、いぢば、ンん♡♡♡」
と今夜も様々な種類の飛沫を撒いた。
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