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5月
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しおりを挟む「昔話ついでに…千早さんは、初めてはお店って言いましたけど…どんな感じだったんですか?」
「聞きたい?ただのフーゾクレポになってまうよ」
「んー…システムとかはいいんで、心理的な所を知りたいです」
「せやなぁ……だいぶん前やけど………」
・
遡ること15年前、とある夏の夜。
「明るいなぁ」
本日二十歳を無事に迎えた千早青年は、いい加減に持て余す童貞を捨ててしまおうと繁華街へとひとり繰り出している。
ギラギラした呑み屋街は綺麗だけどところどころ黒くて汚くて、楽しげな笑い声と対照的な太い怒号が聞こえたりと落ち着きの無い場所だった。
今宵彼が向かうのは会社の先輩に紹介してもらった風俗店で、比較的初心者向けというか良心的な優良店だと言うので選んだ次第である。
「(ばり緊張する…高石を引っ張って連れてくりゃ良かった…)」
同僚の高石はこの頃交際相手がいたために、「奢るから」と誘ったが断られてしまったのだ。
同い年の彼は学生時代に初体験は済ませており、実はそれも千早のコンプレックスをちくちく刺激していたりする。
「…ここか…」
簡素な雑居ビルにピンクの看板、覗いて入れば中は案外シックに設えてあり、想定していた風俗店のイメージとはかけ離れている。
「いらっしゃいませ、ご予約されてますか?」
「あ、いえ、初めてで…はい」
「ご指名はございますか?」
「いや、ありません」
「では、こちらを」
受付ではアンケートの様な物を渡されて、千早はよくよく文言を読みながら記入していった。
「(してみたいプレイ…あれへん、分かれへん…)」
ここまで来ておいてお上品ぶるつもりも無いが、初対面の女性に対して荒々しいこともできないし大体行為自体が初めてである。
千早は『童貞』の項目を見つけて震える手でチェックを入れる。
そしてしんみりしすぎないように『話しながら』『リードして欲しい』にも同様にチェックを入れて受付へ戻した。
待合室は男性が数名、なるほどレンタルビデオ屋のカーテンの向こうと同じで『紳士の社交場』と称されるだけはある。
ここに入ってから今まで誰とも目が合わない。
「お客様、どうぞ」
「へい、」
しばらく経って千早は呼ばれ、通路の先の子部屋へと案内された。
・
「初めまして、リアラです。なんてお呼びしましょうか?」
中で待っていたのは20代前半くらいの可愛らしい女性、おそらく千早より年上で胸が大きかった。
「あ、『お兄さん』でええっすよ」
「はい、ふふっ♡ではお兄さん、お茶、飲みましょうか」
「へぇ、」
聞いてはいたがここソープは名目上は「風呂屋」で、「個室で女の子と入浴できる」ところまでが表向きのサービスであるらしい。
そこから致すことは自由恋愛、店側は「売春?さて、なんのこと?」というスタンスらしい。
なのでこの空間で千早は彼女と1時間のうちに恋愛をして、セックスまで至った、という名分で帰るわけだ。
他愛のない世間話をしながら物理的にリアラ嬢は距離を縮めて、彼の緊張を解してくれた。
「お風呂、入りましょ」
「ん、」
「やだ、うちがしますから、任せて、」
シャツから抜こうとした腕を引き留めて、彼女は裾を捲って千早の服を脱がしてくれる。
ちなみにだがリアラ嬢は肌触りの良さげなワンピース1枚で、するりと腕を抜けばストンと落ちた布の中から白い肌が現れた。
「こちらどーぞ、ん、お兄さん、細いけど筋肉付いてる…力仕事やろか?」
「ええ、そんな感じ、」
「ふふ、ん、お兄さん、キス…は嫌い?」
「いや、ええの?」
「ええよぉ、ん、ふふっ♡」
憶えている限り物心ついて以降のファーストキス、それは化粧臭くってベタついて、しかしねっとりとして気持ちが良かった。
「お兄さん、初めてやって聞いたけど、うちで大丈夫?」
「いや、こっちこそ、慣れてへんくて…すんません」
「やぁだ、うち童貞さん好きよ、ふふ」
風呂と言っても浴槽にたどり着くまでのタイルの床には大きなエアマットが敷いてあって、脳内で「あ、AVで観たやつやん」と小さな千早が叫ぶ。
ぬるぬるとボディーソープを纏わせて洗体してもらって、リアラ嬢は自身が受け入れる千早のソコを特に丹念に綺麗にしてくれた。
「(わー……ちんちん触ってもうてる…うわー…)」
泡の滑りで気持ちは良いもののやはりまだ緊張が勝っていて、夢見心地というか「俺は何でこんな所に?」と妙に落ち着いた自分もツッコミを入れたりする。
「…緊張してはる、あんまり深く考えんとってね、気持ちええことしようってだけやから」
「ええ、うん、酒でも入れてくりゃ良かったっすわ」
「ふふ、大丈夫よ、ほなそこ寝て?もっと悦うしよな」
「へぇ」
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