自己評価低めの彼女は俺の自信を爆上げしてくれる。

茜琉ぴーたん

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5月

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「ほな……ん、チカちゃん、ん、」

千早ちはやは玄関まで見送る知佳ちかへ頬を差し出し、察してもらえないと分かると人差し指でトントンとそこを叩いてアピールした。

「へ?なにか付いてます?」

まだ朝食は摂っていないが食べカスかよだれの跡か、知佳は自身の頬に触れてガシガシとすっぴんの肌を擦る。

「ちゃうって、チューよ、行ってきますの、ほら、」

「あっ……え、今?」

「他にいつすんのよ、ほれ、遅刻してまうよ、」

「ぅぁ……ん、ん♡」

少し腰を屈めた千早のけた頬へ、知佳はこれもすっぴんの唇をちゅっと付けて、すぐにかかとを床へ戻した。

「ひひっ…ほっぺたもええね、ん、行ってくるわ!」

「行ってらっしゃい、気をつけて…」

 バリバリと空気を破るエンジン音が駐車場に響き、そのまま段々と遠ざかって行く…

「……ふ……ベタな…照れる…くァ…」

ひとり部屋に残った知佳は火照った顔を手のひらで冷やし、時たまなされるベーシックな胸キュン案件に口元をほころばせた。





「ひひっ…ええ滑り出しやなぁ♡夫婦みたいや…」

フルフェイスの中でそう呟き、千早は一路ウツミ興業の事務所へと走る。


 昨夜から千早は知佳の家に泊まり込みそれなりにラブな展開があり、交際して6ヶ月目にして初めて「行ってきますのキス」を達成した。

 彼女の家から出勤するのは初めてではないが、寝坊したり時間的に余裕が無い場合が多く、毎回嵐の様に慌ただしく玄関を通り過ぎていたのだ。

 しかし今日はしっかり早起きしたし知佳は休日だし、時間にも心にもゆとりがあって彼女手製の朝食までいただけた。

 「残り物ですみませんなんですけど」と予定調和の謙遜も聞けたし、実際昨夜のカレーの残りだがパンに塗っても美味しいし、何ら問題はない。

 眠そうな目で隣に座り、パンを頬張る千早を優しく見守るパジャマ姿の知佳…もしあれが毎朝、あのもてなしを毎朝していただけるなら。

「同棲…本気で提案してみよかな…よう寝れるし…」

 男は真面目に、毎回寝過ごしてしまうのは知佳の家に何らかの不思議なパワーが働いているからだと考えている。

 以前それを彼女へ伝えたところ、「そりゃあ、畳に煎餅布団とコイルマットレスに羽毛布団じゃ、寝心地違いますよ」ともっともらしい答えを貰って閉口してしまったのだが。


「チカちゃんが安眠剤…やねんけどな、」

 自己評価が低い彼女はそれもきっぱり否定して、「私が特別なんじゃなくて、群れだと落ち着く、動物の本能でしょうね」と困ったように笑った。

 証明したいが術はなし、事務所へ着いた千早はメットでへたった髪をくしゃくしゃと起こし、

「おはようさん、」

と建物へ入る。





 さて、一方の知佳は千早の食べた後の皿を再利用して自分も朝ごはんを済ませようと考えていた。

 皿を洗うのが面倒くさい、それを言えばまた口論になるのだから送り出してから…怠惰はひっそりと行うのが身に付けた知恵である。

「天気がいいなぁ…あ、洗濯、」

トースターに食パンを置いてつまみを回し、脱衣所にて床へ投げてある千早の作業着を洗濯機へ放り込んだ。

 現状彼は作業着は2着体制で回しており、ひどい汚れでなければ隔日で洗濯をしているらしい。

 汚れの主な成分はホコリと泥、他と分けなくても良いかと他の下着類も同時に洗うことにした。

「なんか…夫婦っぽい……いや、浮かれすぎ…」

ぐるぐると右へ左へ回り始める洗濯槽の動きを目で追い、所定の量の洗剤を投入する。


「慣れたら……いつか…飽きたり、するんじゃろうなぁ…」

ぽつりなまってそう呟き、給水が始まってもしばらくは浸っていく作業着の様子を眺めていた。
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