自己評価低めの彼女は俺の自信を爆上げしてくれる。

茜琉ぴーたん

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4月

39

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「……おーし、」

 千早はバイクに跨りいつも通り県道へ出て、しかし裏道を曲がりすぐに引き返す。

 そして知佳のアパートの隣の農業農林組合の敷地に静かにバイクを停めて、そうっと玄関扉の前を歩いて…

『♪~』

棟の端から2番目の扉のチャイムを鳴らした。


『はい………あれ千早さん?どうしました?』

「ん、ちょいと言い忘れたことがあってね」

『待ってください、』

 彼が訪問したのは先程まで居た松井の部屋、ぱたぱたと出てきた家主はうたた寝していたのか顔に袖の痕が付いている。

「ど、どうしました?」

「うん、ちょっと入らせてな。……松井くんなぁ……その、もし、もしよ?ムラタをクビんなったら、うちウツミに来いよ。みんな気のええ奴らやし、給料もなかなかやから」

「え、あは、わざわざ…それを?」

少し気張っていた松井はキョトンとした後に吹き出し、しかしすぐさま表情を作ってニヒルに首を傾げて見せた。

「うん……いや、車好きやったらドライバーでもええし…再就職までのつなぎでも、できるから…そのー…ちっとでも気分がな、軽くなりゃええなと思うて」

 このご時世に正規社員の座を失うことはなかなか辛い、しかも松井のようにプライドが高い者は職種の違う肉体労働など嫌うかもしれない。

 しかし短期の繋ぎと割り切って、それも知り合いからのスカウトという形ならば働き易いのではないかと…千早なりに考えてのことだった。


「ありがとうございます…優しいんですね」

「…まぁね……チカちゃんがお世話になってるからな……うん、悲しいけど俺とのデートより松井会を優先されたこともあるしな、あの子…松井くんのことはほんまに慕ってるから…辛い目には会うて欲しくないねんな………うん、ほな、うちのチカちゃん、あんまり虐めんとってや、俺のやから、な、おやすみ!」

「あ、おやすみなさい、」

 また千早はこそっと建物の前を通ってバイクへ戻り、今度こそ県道から国道へ出て自宅方面へと走り出す。


「余計やったかなー…ひひっ…」

フルフェイスの下で千早は「柄にもないことを」と自嘲じちょうした。


 その数日後に聞いたところによると松井はクビではなく近隣店舗への転勤、相手のパワハラ上司も降格の上転勤になったそうである。
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