上 下
34 / 85
4月

33

しおりを挟む

 4月も下旬に差し掛かったある日のこと。


 千早がいつものようにセンターへ戻って来て精算をしていると、商品管理室では松井と知佳がワタワタと伝票を漁っていた。

 2人の表情は硬く、知佳に至っては下唇を噛み込んで神妙さを窺わせる。

「なんやあったっぽいな」

探し物かトラブルか、いずれにしても部外者の自分は踏み込めないなと千早は大人しく翌日準備に取り掛かった。


 その後室内では松井が知佳へ話しかけ、彼女がうんうんと頷く様子が見てとれ…彼は手を挙げて「またね」と口を動かし部屋を出て、目が合った千早へも会釈をして駐車場へと出て行く。

「…なんや、今生の別れみたいな…」

いつもにこにことした松井が少し寂しげで、以前なら気にもしなかっただろうが妙な胸騒ぎがした。


 あらかた仕事を終わらせて高石たかいしに少し時間をもらい、千早は部屋に残った知佳へと声を掛ける。

「チカちゃんおつかれ…どないしてん、松井くん…なんや元気無かったやん」

「お疲れ様です…んー、乱闘、まではいかないんですけど、上司と揉めちゃいまして。松井さんもその上司も明日は自宅待機…謹慎みたいな、感じになったそうなんですよ」

「へぇ、松井くんが?やるね」

あの絵に描いたような好青年が乱闘か。

 それはよほど腹に据えかねた想いでもあったのか信念を通そうとしたのか…千早は正義のクーデターのような印象で想像した。

「はい…それで未入荷品とか伝票精査をしておこうって…最悪の場合、その…謹慎のまま転勤とか解雇とかになったりするかもしれないので…」

「解雇て…松井くんが悪いの⁉︎」

「いえ、上司が何かして、歯向かったというか…私もよく分からないんです。でもスッキリした顔をされてたので…相手の…上司は色々と悪名高い人だったんです」

いさかいの詳細は分からないが、知佳は何となくその上司と方に非があると踏んでいて、つい無意識に「だった」と過去形にしてしまう。

 実際には嫌悪感を露わにした松井の態度に上司が激昂、掴みかかられて殴られ揉み合った…というものなのだが現場を目撃していたのはごく一部の人間だけだった。


「何、パワハラ?」

「それもですね。あとセクハラっぽいことだったり…すみません、身内の恥を」

「いや、触られたりした?訴えろよ」

「いえいえ、体つきに言及されたりした子がいたんですよ。今度の歓送迎会の余興に女性陣で余興とかさせようとしてたみたいで…その会の幹事が松井さんでね、珍しく『幹事がダルい』って言ってたからそういう…のも関係あるのかもしれませんね」

 松井は幹事として出欠表を作るのも乗り気ではなく、余興の打診も「チカ、したくないよな?」というスタンスで尋ねてきていた。

 おそらくだが上司に提案された余興は「女性」を全面に打ち出すような内容の物だったのだろう、松井は他の対象者にも同様の聞き取りをしていたらしい。

「余興か…ハロウィンみたいなやつやろか」

「うーん、あれはね、小規模な集まりだったから私もできたんですよ。店を挙げての会だとしたくないですよ…あとね、あそこまで仮装してくるとは松井さんも思わなかったんですって。猫耳だけとかでも良かったらしいんです」

「はぁ…張り切っちゃったのね、」

「私は提案してないですよ、元はと言えばギャル仮装は高石さんの意見ですもん…」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...