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4月
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しおりを挟む4月も下旬に差し掛かったある日のこと。
千早がいつものようにセンターへ戻って来て精算をしていると、商品管理室では松井と知佳がワタワタと伝票を漁っていた。
2人の表情は硬く、知佳に至っては下唇を噛み込んで神妙さを窺わせる。
「なんやあったっぽいな」
探し物かトラブルか、いずれにしても部外者の自分は踏み込めないなと千早は大人しく翌日準備に取り掛かった。
その後室内では松井が知佳へ話しかけ、彼女がうんうんと頷く様子が見てとれ…彼は手を挙げて「またね」と口を動かし部屋を出て、目が合った千早へも会釈をして駐車場へと出て行く。
「…なんや、今生の別れみたいな…」
いつもにこにことした松井が少し寂しげで、以前なら気にもしなかっただろうが妙な胸騒ぎがした。
あらかた仕事を終わらせて高石に少し時間をもらい、千早は部屋に残った知佳へと声を掛ける。
「チカちゃんおつかれ…どないしてん、松井くん…なんや元気無かったやん」
「お疲れ様です…んー、乱闘、まではいかないんですけど、上司と揉めちゃいまして。松井さんもその上司も明日は自宅待機…謹慎みたいな、感じになったそうなんですよ」
「へぇ、松井くんが?やるね」
あの絵に描いたような好青年が乱闘か。
それはよほど腹に据えかねた想いでもあったのか信念を通そうとしたのか…千早は正義のクーデターのような印象で想像した。
「はい…それで未入荷品とか伝票精査をしておこうって…最悪の場合、その…謹慎のまま転勤とか解雇とかになったりするかもしれないので…」
「解雇て…松井くんが悪いの⁉︎」
「いえ、上司が何かして、歯向かったというか…私もよく分からないんです。でもスッキリした顔をされてたので…相手の…上司は色々と悪名高い人だったんです」
諍いの詳細は分からないが、知佳は何となくその上司と方に非があると踏んでいて、つい無意識に「だった」と過去形にしてしまう。
実際には嫌悪感を露わにした松井の態度に上司が激昂、掴みかかられて殴られ揉み合った…というものなのだが現場を目撃していたのはごく一部の人間だけだった。
「何、パワハラ?」
「それもですね。あとセクハラっぽいことだったり…すみません、身内の恥を」
「いや、触られたりした?訴えろよ」
「いえいえ、体つきに言及されたりした子がいたんですよ。今度の歓送迎会の余興に女性陣で余興とかさせようとしてたみたいで…その会の幹事が松井さんでね、珍しく『幹事がダルい』って言ってたからそういう…のも関係あるのかもしれませんね」
松井は幹事として出欠表を作るのも乗り気ではなく、余興の打診も「チカ、したくないよな?」というスタンスで尋ねてきていた。
おそらくだが上司に提案された余興は「女性」を全面に打ち出すような内容の物だったのだろう、松井は他の対象者にも同様の聞き取りをしていたらしい。
「余興か…ハロウィンみたいなやつやろか」
「うーん、あれはね、小規模な集まりだったから私もできたんですよ。店を挙げての会だとしたくないですよ…あとね、あそこまで仮装してくるとは松井さんも思わなかったんですって。猫耳だけとかでも良かったらしいんです」
「はぁ…張り切っちゃったのね、」
「私は提案してないですよ、元はと言えばギャル仮装は高石さんの意見ですもん…」
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