33 / 85
4月
32
しおりを挟む夜も更けてくると千早は居心地の良いこの部屋と抱き心地の良い恋人から離れるのが億劫になり、並んでゆったりとピロートークを始めていた。
「落ち着いた?」
「…はい…あ、ベッドから落ちないでくださいね…」
「落ちひんよ…ガキちゃうねんから。なぁ、今日やっぱ泊まってええか?…ん♡」
乱れた髪と崩れたメイクを隠さないのは気を許した証拠だろうか、千早はヨレたアイラインの端に唇を付ける。
「いいですよ、うちには初めてのお泊まりですね。でもいいんですか?いつも言ってる…ほら、区切り云々」
「せやね…うん…もう抱いてもうたからええかなって…もう今夜は打ち止めやと思うし…布団もええ匂いすんなぁ」
「タバコ、大丈夫ですか?気にせず吸いに出ていいですからね」
「うん…今はええわ…もうちょい余韻に…浸りたいな…」
「千早さん…ちなみにですけど、昼と夜の…その、エッチするしないの区別をつけるのはなんでです?いえ、立派だと思うんですけど、千早さんにしては…ちゃんとしすぎというか…」
そもそもどうしてセックスとイチャイチャの線引きを明確にするのか、知佳も気にはなっていた。
彼女にしてみれば千早は当初から充分過ぎるほどに色っぽくて、実際抱かれてみればやはりねっとりとイヤらしく責めてくる。
それはイメージの通りだったのである。
「ん、前の…もう何年も前よ?…彼女にはそれで嫌がられて3ヶ月で振られてん」
「は、」
「盛ってもうたのよ。若かったしな」
「へ、」
「会うたびに…それでも週1くらいか。エッチしてたら『辛い』言われて振られてん。好きやったからシたかってんけど…でも今思えばシたい気持ちがこう…空回りしてた気もするな」
ひと晩にハイペースで濃厚な千早との行為を数回、それをデートの度に…知佳は自身の経験からその彼女さんの体の負担を想像して頬を赤らめた。
今のところ知佳は体調を第一に考慮しており行為スケジュールは彼女に選定権があるし、二人の休みが重なっても先約を優先して毎回はデートをしていない。
なので解禁になったとはいえ行為回数はともかく、日数で言うと元カノさんの半分くらいの頻度であろう。
「ほー…」
「好きやん、会うやん、エッチしたいやん、当たり前ちゃう?」
「まぁ、」
「歳取ってちょっとは抑えが効くようになったのよ、チカちゃんに魅力が無いとかそんなん言うてへんよ?俺はまだいつでも勃つから。うん、」
「はぁ……大人、ですね」
歳の差は6歳だが彼の体力はまだ有り余っているようで、知佳はこの先交際が続けば自分も元カノと同じように「辛い」と思う日が来てしまうのだろうか?とふと不安になった。
「……チカちゃんは?…聞かへんかったけど…前の男はどんな感じやったの?」
「え、フツーの…学生でしたよ」
「ふーん?エッチもしてたんやろ?」
「まぁ、ええ…」
「どれくらいの頻度で?」
知佳は記憶を遡り何となくの平均を割り出し、
「んーー……月1…くらい?」
と自信無さげに答える。
「はぁ⁉︎全然やん…」
「距離は近かったんですけどね、大学が忙しい人で…私も土日にバイト入れてたし…それでも会う度にって感じで。欲してくれるのは有り難いんですけどそんなに…気持ちは良くなかった…うん、」
「別れたのは?振ったん?」
「いえ、その…向こうが卒業後には地元に帰るからって、『別れよう』って…言われましたね…」
学生時代だけの現地妻の様な扱い、しかしそう言われても知佳は「嫌だ、別れたくない」なんて縋りはしなかった。
そこまで彼に執着していなかったのが一点、そうまでして今後の自分に期待を掛けてもらっても申し訳ないという諦めが一点。
何にせよ、「君は手放せる存在なんだ」と突き付けられれば当時の知佳はそれを受け入れるしかできなかったのだ。
「ふーん………誠実?なんかな?」
「どうなんでしょ…遠距離してまで私を繋ぎ止めておくことはしたくなかったんでしょう、そこまでの女じゃなかったんです」
「卑屈やな。んー……ついて来いとも言えんしな…学生なら…」
「……今考えるとね、そこまで好きではなかったのかもって…思ったりします。私、淡々としてるでしょう?メールとかもね、絵文字を付けろとか文章が冷たいとか…言われて……あ、なんか思い出すと怒りが」
「おう、怒れ怒れ」
千早はニヤニヤと、口をへの字に曲げた知佳を焚きつける。
「…でも今こうして…エッチな千早さんとこう…一緒に居られるっていうのは…不思議ですね」
「エッチな俺と、淡白なチカちゃんがね……俺が落ち着いて、チカちゃんがエッチになったんやね、それでトントン」
「…否めません。性欲は…上がってきてるように思います」
「正直やな…物足りんときは言うてな、精力剤とかも飲むからや、ひひっ」
「もう……あ、シャワーしてきます。化粧も落とさなきゃ」
「ほいほい……んー…」
知佳が風呂場へ向かえば千早はシングルベッドの真ん中へ移動してその柔らかさと弾力、彼女の香りに酔いしれる。
そして彼女が髪を乾かして戻ってきた頃にはガーガーと鼾を立てていた。
「(こうなると思った…どうしよう、寄ってもらえるかな…)千早さん、ごめんなさい、もう少し寄って、」
「んガ…ん、チカちゃん、ん♡」
「ひゃああ」
シャンプーとコンディショナーとシャボンの香り、千早はこの上なく芳しく柔らかい抱き枕をがっちり掴み、朝までぐっすり眠る。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
自己評価低めの彼女は慣れるとデレるし笑顔が可愛い。
茜琉ぴーたん
恋愛
出会って2ヶ月で想いを通わせ無事カップルになった千早と知佳…仕事と生活、二人のゆるゆるとした日常が始まります。
(全21話)
『自己評価低めの彼女には俺の褒め言葉が効かない。』の続編です。
*キャラクター画像は、自作原画をAI出力し編集したものです。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。
藍沢咲良
恋愛
同じ中学校だった澄麗、英、碧、梨愛はあることがきっかけで再会し、定期的に集まって近況報告をしている。
集まるときには常にドリンクバーがある。飲み物とつまむ物さえあれば、私達は無限に語り合える。
器用に見えて器用じゃない、仕事や恋愛に人付き合いに苦労する私達。
転んでも擦りむいても前を向いて歩けるのは、この時間があるから。
〜main cast〜
・如月 澄麗(Kisaragi Sumire) 表紙右から二番目 age.26
・山吹 英(Yamabuki Hana) 表紙左から二番目 age.26
・葉月 碧(Haduki Midori) 表紙一番右 age.26
・早乙女 梨愛(Saotome Ria) 表紙一番左 age.26
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる