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4月
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しおりを挟むスーパーに着いた二人は惣菜売り場で数分悩み、揚げ物を2点ずつ選んでカゴに入れる。
「玉子も…すみません、」
狭い店内ですれ違いざまに年配の女性客と肩が触れ、互いに会釈をして離れた。
「敷地面積の割に物が多いねんな、ここ」
「うん、でも季節限定のお菓子とか飲み物とか、面白いものがあって楽しい」
「非定番商品を安く買い叩くわけやな…やるね」
スーパーも家電屋も会社によって特色があって面白い。
ちなみにムラタは安さを売りにしているが、ネットワークを利用した在庫の豊富さも強みのひとつである。
「お菓子、どれか1個買っていいですよ」
「そう?ほなこれにしよ。何味が好き?」
「チキンとカレー」
千早が手に取った4連の袋菓子のラインナップを確認し、知佳は半分こを前提に好きな味を2つ選んだ。
「ほな俺はソースと塩な」
「嘘、全部食べていいですよ、私はチョコにします」
「分けて食お、遠足みたいで楽しいわ」
菓子を眺める無邪気な目、二人はそれぞれに「子供みたいで可愛い」と共通の感想を持っていたが、言えば拗ねるだろうと口には出さないのだった。
・
同じ道で家に帰り、知佳は昨夜からの残りの白米をよそって座卓へと運ぶ。
「はい、1個ずつ」
「ん、………チカちゃん、皿を使えよ」
先にフライを皿へ取らせて、知佳は透明トレーのまま手前に寄せるので慌てて千早が止めた。
「だめですか?洗い物は少ない方がいい」
「ほな俺がそっちにするよ」
「それはだめ、男の人にそんなことは…」
「彼女が侘しい飯食うてるとこなんか見てられへん」
節約は良い事だがあまりにも貧相でみっともない。
千早は自分の皿を彼女の前へ押し出してトレーを取ろうとする。
「千早さんのと同じでしょ。それに何に載せようがお腹に入れば一緒ですよぅ」
トレーの中でフライはガサガサと横に揺れ、衣が少しずつ剥がれて散らばっていた。
「あかん、皿出してきて」
「はぁ?」
どうでもいいことで突っかかる千早に大して知佳もだんだん意地になり、
「…ここは私の家ですけど?」
と自身のホームグラウンドであり決定権は自分にあることを示せば
「飯代出したんは俺や、言うこと聞かんかい」
と出資者である千早も発言権を主張する。
「横暴」
「頑固もん」
「傲慢」
「ナマケモノ」
「モラハラ」
あとはもう悪口の応酬、これでも本当に口汚い罵倒の言葉は出すまいと遠慮していた千早だったが、謂れのない最後の言い草にはカチンときてしまった。
彼においては正論というか当たり前のことを主張したまでで、不当なことを要求している気などさらさら無いのである。
「ぁあ?どこがじゃ、コラ」
「年下だからって何でも言うこと聞くと思ったら大間違いです。いけません?節約じゃん、」
「みすぼらしいことはすな、言うてんねん」
千早は手を伸ばして知佳からトレーをもぎ取り、皿を出さないならとフライを2個とも直に白飯の上にオンした。
そして皿に載った方は知佳の前へ、これで喧嘩の原因は解決したかに見えた。
しかし自分のやり方になんだかんたとケチを付けられた知佳は出した矛を収めることができない。
「むー…」
「文句あんのか」
「ある、ケンカじゃコラ。素手ゴロじゃコラ」
「変な言葉知ってんねんな…叩いたら泣くくせに」
絶対にしない、絶対に手は出さないが千早は悪態には悪態で返してみる。
「千早さんには勝てる」
「いや、前に夜来た時も言うたけど…細くてもチカちゃんには負けへんよ」
「分かんないですよ?鼻先殴ったら怯むかも」
「熊とちゃうのよ…戦意は喪失するやろうけどね…一応力仕事してんねん、押さえつけたら動かれへんよ?」
への字の口で不機嫌を表して、いい加減折れるよう促したつもりだったが、知佳は
「高石さんとか屈強な人なら無理だけど、千早さんなら逃げられる気がする」
と他の男の名前を出した為にいよいよ彼もキレてしまった。
「はぁーーー‼︎言うたね?チカちゃん…コラぁ、」
高石アゲの自分サゲ発言は誠に心外、千早は立ち上がり座卓の対面の知佳の手首を取って拘束する。
「ぅわッ!」
そのまま近付いてカーペットの床へ組み伏せ、食事の載った座卓をちょいちょいと足で蹴って端へ寄せた。
もちろんこのまま致すなんて想定はしていない。
万が一にも飯をひっくり返せば、庶民的な知佳は汚れたカーペットの始末に頭を悩ませてしまうことだろうからそちらへの配慮である。
好かれているからといってどこか自分を舐めている様子の知佳へ仕置きのつもりで、しかし本気で怖がらないよう口元には彼女好みの笑みを浮かべて、千早は脚も上手に使って彼女を床へ縫い付けた。
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