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3月
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しおりを挟む火曜日の朝。
「タカちゃん、おはよ」
「おぅ、千早…なに、ご機嫌やん」
所属会社・ウツミの事務所駐車場にて、運転前のストレッチをする高石へやけに肌艶の良い千早が挨拶をした。
「そらぁ…分かるやろ、えらい燃えてん」
「そりゃ良かったなぁ……ほな行こか。行ってきますー!」
「ええホテルやったよ、ミニスカポリスの服置いてあってん、場所教えたろか?」
「うわ、お前チカちゃんに着せたんか?」
「着せへんよ、断られてんもん……せや、モリシタのな、チーズ云々の話あったやんか、」
トラックに乗り込み地図を確認しながら、千早は件のモリシタの淫語のことについて触れる。
「うん、」
「チカちゃん、言葉の意味は知ってんねんて。しやけど仕事中に聞くようなことやあれへんから、すぐに理解でけへんかってんて…もうアイツに関わんなて釘刺しといたわ」
「ほー…そいでヤキモチをチカちゃんにぶつけたわけか」
「ノーコメントよ……着いたら起こして、」
元気はあるもののなにぶん睡眠時間が普段より少なかった。
ガタガタと揺れる助手席で千早は大きな欠伸をしてからさっさと目を閉じた。
脳裏に浮かぶのは今頃まだベッドの中に居るだろう恋人の姿。
彼女の疲労の原因を担った達成感に千早はふふんと笑うも、下腹部に熱を感じたので慌てて目を開けて前屈みになる。
・
さらに翌日の夕方。
千早と高石がムラタへ戻った時、商品管理室の窓へとモリシタが向かって行くところに出会した。
「あ」
「モルちゃん…近付いてるやん…」
「なんやでも……タカちゃん見て、チカちゃん心なしか塩対応に戻ってへんか?」
「ほんまやな…目ぇ合うてへん。成功ちゃう?」
「せやね、ひひっ!俺も行ってこよ」
明日分の配送伝票の束を持った高石を置いて、千早も商品管理室へと足を進める。
「…チカちゃん、ただいまぁ」
「あ、おかえりなさい、」
モリシタとの気まずさを吹き飛ばす恋人の登場に、知佳は目に見えてその表情が晴れやかになり笑顔を見せた。
そしてその口元にはチャーミングな八重歯、千早はつくづくこの口を開かせる存在になったことに、この歯を自然に拝める存在になったことに優越感を覚える。
「モリシタくんよ、仕事溜まってんで」
彼の後ろの長机にはウチシバ陣営がたんまりと配送伝票を持って地域ごとに分別作業を始めていた。
千早がそれを顎と目線で指し示せば、モリシタはあっさり「おう」と窓枠から体を離す。
「ほなね、チカちゃん」
「はい、あ、チョコレート美味しかったです!」
「どういたしましてー」
元々が決定的な下心がある訳でもない。
モリシタは特に名残惜しむこともなく席へと戻り、千早は慣れた様子で空いた窓口のサッシヘ肘を乗せた。
「言うた通りできてるやんか、チカちゃん♡」
「…何がですか」
「関わんなって言うたやろ、立派な塩対応やったよ」
「元々がそうなんです……陰キャですけど、陽キャに良いように遊ばれるのは御免ですからね、自分のことは自分で守らなきゃ」
知佳は自分にモーションを掛けられているなんて想定はしていない。
しかし千早目線ではわざわざ海外で女を買うような男のことだから、割り切った仲の女性を見繕っていないとも限らない。
千早は眉間をくしくしと指で摩り、
「そういうんやなくて、女として見られて……まぁ自衛するに越したことはないわな。また今度ご褒美あげよな、」
と笑えば知佳の唇がぴくんと反応して頬が上気していく。
「チカちゃん、いま何想像した?」
「…なにも」
「ご褒美セックス想像してへん?エッチやなぁ♡」
「ハラスメント!一発退場、自重してください!」
知佳の声はホールへも余裕で響いたので、千早はサッと窓を閉めて退散した。
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