自己評価低めの彼女は俺の自信を爆上げしてくれる。

茜琉ぴーたん

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3月

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「……ハ……なに、千早さ…なにすん…」

「すまん…他の奴と仲良うしてるんが腹立ってん…やきもちや」

「いや、後で言ってくれれば…あ、」

 また千早が指示書を持ち上げる仕草をすれば彼女は反射でビクンとおののいて、受け入れる準備で閉じた唇も下がった眉尻も実に愛しく…男の欲がじんじんと疼いた。

「チカちゃんから、シて、これで隠すから」

「え、それで終わります?」


 誰が入ってくるか分からない。

 隣のトイレを使うために往来する人出もある中で、何より数メートル先の長机には配送員が座っていて。

 このシチュエーションで口付けを迫るその高姿勢な千早へ、知佳は悔しくもキュンとときめいてしまう。

 仕事中なのにいけない、見られるかも、背徳感、羞恥心。

 目の前の男がペロと唇を舐め回せばぶわっと興奮が押し寄せて…知佳は背中を丸めて姿勢を更に低くし、顔を傾けて千早を捕まえた。

「んッ♡……もゥ、おわ、ア♡」

「ン♡ベロ出せ、んム♡」

離れようとした知佳の顎を掴んだ千早は増長し、夜モードで支配的な要求をする。

「ん、ん、………千早さん……えっち…」

 床上60センチほどまで屈んだから室外からは見えないだろう。

 そう踏んだ千早は深いキスで知佳を食み、実際に外からは二人の姿は見事に隠れていた。

 それを証明するのは千早が席を離れてから一部始終を眺めざるを得なかった高石で、立った彼の視点からでも室内のキスシーンは拝むことは出来ず、かつ室内へ顔を向けている者はいなかった。

 それを教えてくれたのは帰りの車内でのことである。


「すまん、あー……あかんな…戻るわ…チカちゃん、……なぁ、エッチしたいわ、いつならええ?」

「へっ…あ、ちょっと、仕事中ですよ、」

「ちゅーまでシてんねんから一緒やろ、な、いつならええ?」

ドアへ向かう千早は猫背を更に前傾させ、昂まった気持ちを知佳へぶつけた。

「あ、っと……げ、月曜…くらいなら…翌日休みだし…大丈夫…」

「ん、分かった。待ち合わせてホテル行こ、決まりや。ええね?」

「えぇ、えーと…」

声のボリュームが大きい、室内には売り場フロアと同じBGMが調整された音量で流れてはいるが、防音ではないのだから配慮して欲しい。

 知佳はあたふたと横目でロビーを窺う。


 そんな誘いにそぞろな姿に不満な千早は再度彼女へ近付き、

「チカ、明後日やぞ、抱くからな、ええな?返事は、」

と小さくなった知佳を見下ろして「YES」を迫った。

「は、い……あ、分かり…まし…た…」

「うん、ほなね、」

望む答えを引き出した男は去り際をキュートともとれる笑顔で飾り、背筋を正して高石の待つ机へと帰って行く。


「暴力的…性的に…うわ、」

萌えスイッチを連打された知佳はもじもじと膝を捩って唇に触れ、自身をここまで崩し昂らせる恋人の存在自体にどうしようもなく興奮して…しばらく項垂れたまま動けなかった。


「しつれーい…ん、チカちゃん?どしたの?気分悪い?」

 トイレついでに伝票確認に訪れた美月みつきに心配されるも、知佳は

「いや、あの、何でもない…」

としか返せず、赤くなった頬をガシガシと擦っては同僚を驚かせるのだった。


 ちなみにだが、美月がロビーを通過した際にもウチシバ陣営は「美人やなぁ」と盛り上がり…知佳と同じく「面倒なので意識的に広めるな」と言われている高石は、それこそ鬼の形相で殺気を放っていた。

「高石、商品積みに行こ、」

「アカン、ミーちゃんが売り場戻るまで見届けな…」

「はいはい」


 千早は高石と一緒に美月が戻って行くまで見守って、いつもより遅れて仕事を終わらせる。
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