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調査・神戸
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しおりを挟む「お疲れさまです、嬉野さん」
呼ばれてカウンターから出て来たのは和田愛花(30)、レジと金庫業務がメインの営業事務員だ。
彼女は和田くんと入籍して半年にも満たない新妻さんで、彼の転勤を追いかける形で皇路からやって来た。
ちなみに同一店舗内夫婦は異なる姓を名乗りがちだが、愛花さんは「夫は役職で呼ばれるから混同されないでしょー」と軽いノリで和田姓で通している。
小柄でお洒落メガネにふわふわショートボブ、仏頂面な和田くんと並ぶと殊更に軽やかさと柔らかさが際立つ。
彼女は親しみやすさに定評があり、人との距離を縮めるのが得意なのだそう。
物怖じせず誰にでも話しかける度胸があり、それでいて過度なお世辞で持ち上げたりはしない。
だらだらと駄弁るにも真剣な相談にも真っ向から組み合ってくれる親身さで友人も多いらしい。
「皇路本店に浜田くんって居てたらしいねんけど、知ってる?」
和田くんは、妻に対しては言葉を崩した。
「浜田くん…はいはい、知ってますけど。ブランドの人ですよね?転勤前に少しだけ期間は被ってました」
「和田さん、その浜田くん…何か、知らないかな、その、人柄とか素行とか」
僕は下手な前置きもせずに斬り込む。
色んな人に尋ね過ぎて、少々公私のボーダーが曖昧になっていた。
「そこう、ですか…んー、女遊びが激しい、とか」
「そう、具体的に…言える範囲で」
「店内ですと、大人しそうな子を狙ってる感じでしたかね。でもまずは男慣れしてそうな人に行ったみたいですよ」
「清里所長とか高石さんとかって聞いたけど」
「はい。既婚者とか彼氏持ちには手を出さないそうですよ、ポリシーなのか…商管の千早さんもジリジリ距離を詰められて困ったそうです」
「ん?それは…知らなかったな。千早さんとも話したのに」
本店の商品管理室の千早さんにも聞き込みをしたというのに、彼女は自分の被害については匂わせなかった。
浜田に口説かれたことを恥と感じたのだろうか。
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