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ウズ編・瀬戸内ひとり旅
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しおりを挟む駅から見下ろした街は片側2車線の道路の傍の街灯だけが明るくて、周りは暗い山だった。
外に出て更に気付いた事…繁華街とか駅ビルが無いのはまだいい、暗くても土地勘が無い俺でも分かる、ここには海が無い。
「おかしいな」
彼女の故郷は海辺のthe☆観光地という所、瀬戸内の多島美だとか美味い小魚だとかを観光資源にしている街だったはずなのに。
俺は駅舎に戻り、客もおらず持て余していそうな窓口職員へ尋ねてみた。
「すんまへん、ここ、海は見えへんのですか?」
「海ですか?昼間でも高台に登らないと見えませんね…方角はそっち、南の方の…市街地の方ですね」
「しがいち?ここ街ちゃうの⁉︎海とか島とか…」
我ながら素っ頓狂な声を上げてしまったと、すぐさま口を閉じる。
「あ、沿岸の在来線の駅とお間違えですかね…ここは新幹線だけなので、観光地らしいのはそっちの海沿いの方ですよ」
「the☆観光地、の。よう写真とか出るやつ…」
「そうですそうです。商店街もラーメン屋もお寺なんかもあっちですね」
「あぁ…そう……おおきに…」
時刻は23時をとうに過ぎとりあえず泊まる場所を確保しようと、外で一台だけ客待ちをしていたタクシーでその海沿いの駅の方へ向かってもらう。
沿道にコンビニや飲食店が増えてきて、在来線の線路を跨ぐ小高い陸橋からは島灯りが見えた…やっと海が近づいたのだ。
周りの景色が灯りでだんだんと明るくなって、わりと近年完成したという新しい駅舎の前を通り、この辺りで一番大きなホテルの前で降ろしてもらった。
タクシーの運転手は愛想よく、すぐに駅前のロータリーへ次の客を求めて吸い込まれていく。
「こっちは確かに観光地っぽい…」
沿岸の工場の大きなクレーンは色とりどりのライトアップがされて映えそうな雰囲気、後で聞いたところによると造船所がいくつかあり、そこのクレーンらしかった。
俺の故郷の寝屋川の沿岸部にも工場地帯は広がっているが、製造する物が違えば設備も違う。
ここには高い煙突群も巨大なタンク群も建っていなかった。
「…キレイやな…」
志保は大阪に越してくるまでこの景色を見て育ったのか、彼女の記憶に触れたようで少し嬉しく感じる。
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