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ウズ編・瀬戸内ひとり旅

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 一家の勧めで、俺は昼食まで二階の仏間に寝そべることにした。

 そして彼女も、なぜか甥っ子も並んだ二人の間に収まり仰向けになる。

「コイツ…えらい懐いとんな…」

 邪魔な坊やは俺には後頭部を向け志保の腕にしがみ付いて、脚の裏で俺の脇腹をまたしても攻撃してきた。

「年に2回くらいしか会わへんねんけど、ふふ……ねぇ、さっきケータイ見たんやけど、着信履歴がいっぱいやった。ふふっ」

「やかましな…不精ぶしょうも大概にせぇよ」

「言うてたのにねぇ、」

彼女は当て付けで坊やに語りかける。

「すまんて…気が…大きなってた、レギュラー貰えて…忙しい気になっとった。志保の方がフルタイムで忙しいしてんのに」

「ホウ・レン・ソウができてへんかったね、なんとなく聴き流されてるかもとは思ってた…まぁ大した用事やあれへんから念押しもせぇへんかったんよ」

「悪かった」

「ええよ…ほんまは…ほんまはね?近所を電波探して歩いて、っていうのもできんこともないねん、けど…ちょっと、懲らしめてというか…寂しい思いしてくれたら胸がすくなぁとは…思うてた」

「見切り付けられたんか思うた…寂しかった…ご期待に添えたよ」

「ふふ」

「ちゃんと…するから…戻って来てくれ」

「逃げたわけと違うけど…ふー……ねぇ、どこに泊まったん?」

「海側のビジホ……ほら、今朝の朝メシ」

俺は画像フォルダを開き、朝食バイキングでの写真を見せてやった。


「……これ…誰と泊まったん?」

「……ハァ?わし一人やん」

 なぜそういった発想になるのか。

 理解が追いつかず鼻で笑うも、彼女がそんな事を邪推するほど俺に関心があるのだと思うと少し嬉しい。

「でもこれ、向かいに座った人に撮ってもらったんやない?そういう風に見える…」

「あ、」

そりゃあそういうていで撮ったのだ、そう見えるように撮ったのだ。

 意図通りに捉えてもらえて嬉しいと喜べるはずもなく、俺は恐い目をした志保を直視できなかった。

 架空の同伴者を作って責められるか、自撮りを他撮りに偽装した情けなさを露呈するか、どちらが楽だろうか。

「…浮気?」

「…ちゃう…」

「朝まで居るタイプのデリヘル?」

「っ、あほ言いなや!んなことせぇへん…」

「うー」

つい出てしまった声に、甥っ子がますます険しい顔でこちらを睨む。

 これは白状した方が良さそうだ、

「いや、あー、ア~~……自分で…撮ってん…ええやろ…自撮りしても…」

と伝えると志保は普段通りチャーミングな顔つきに戻った。

「……向かいに人が座ってる風に、ポーズ決めて撮ったん、なんそれぇ、もう…かわいいやん」

「何やねんなお前もお前の家族も…男にかわいいて…馬鹿にし腐って…」

 甥っ子も真似をして「かぁいい!」と笑う、俺が鼻頭にシワを作って威嚇いかくするも彼はもうひるんではくれない。

「もうええ…アー、疲れた。夕方までには帰るからや、志保は?」

「チケットまだ取ってへんの。私も一緒の便で帰ろかな」

「ん、ほな…うん…帰ろ…んでごめん、俺の分も切符買うてくれ…」

やっと旅の終わりだ、俺は大の字に体を広げ、思えば遠くへ来たもんだと天井の木目を目で追いゆっくりとまぶたを閉じた。
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