上 下
10 / 22
ウズ編・瀬戸内ひとり旅

2

しおりを挟む

 田舎とは言えそれなりに栄えた観光地、そこに彼女の実家はある。

 なんとなく最寄駅は分かる気がするが、乗り換え案内を調べるとどうも各駅停車の新幹線しか停まらない駅のようだった。

 大きな駅まで特急で行って各駅に乗り換えるプランを採用し、自由席で1時間30分の一人旅が始まった。


 さっきの文面は怒ってる風にもとれるが喧嘩をした覚えもない、一か八か

『なんの用事?きいてへん。さみしい』

とメールを送ったものの、返信は来ない。

 この間に事故でもあったか、人さらいにでも遭ったか、もしや俺はとても重要な話を聞き逃したのかもしれない。

 例えば、別れ話であるとか。


 新幹線はどんどんと西へ進んで行くのに未だ返信は届いておらず、そもそも実家に帰るというのが嘘のパターンもあるのでは、と新たな疑惑も浮かんでくる。

「逃げるんやったら行き先なんか書かへんもんな…」

 ただ悶々と、俺は数回喫煙スペースへ行っては煙をくゆらせた。


 志保との出逢いは中学生の時、向こうが親の転勤か何かで引っ越して来て同じクラスになったのがきっかけだった。

 スラリと長身細身で美しくて賢くて、一目惚れした俺は毎日のようにアタックをして毎度振られても諦めず告白し続けたのだ。

 俺たちが高校を卒業する年に彼女の親は広島の父方の実家へ戻ることになり、大阪の大学進学を決めていた志保だけこちらへ残して引っ越すことになった。

 既に同級生のナリとお笑いの養成所に入ることを決めていた俺は志保のご両親へ「一緒に住まわせて下さい」と頼み込み、相方カップルも含めて4人で生活を始めて…今に至る。

 一人暮らしよりは安全かと俺を信用してくれたのも嬉しかったし、寝ても覚めても志保と一緒に居られるのはこの上ない幸せで。

 しかしなにぶん財力にとぼしいので家計は火の車だった。

 それぞれにアルバイトなどして志保は大学に行きながら家事も頑張ってくれて、俺も本業を頑張りたいのだがなかなか芽が出ず月日ばかり過ぎる。

 そうして志保は大学を卒業して手堅い企業に就職、俺はそれからさらにくすぶり続けしかしだんだんと認めてもらえるようになって…芸歴11年目の夏にやっとテレビのレギュラーを勝ち取った。


 近況といえばそんなところ、まだアルバイトは辞められないが明るい未来が見えてきた感じがしていたのだが…志保は何か俺に言えない不満を抱えていたのだろうか。

「んー……皿洗い忘れたんがアカンかったか…?」


 50分ほど乗ったら最初の乗り換え、向かいのホームへ移動して7分、まだかまだかと各駅停車の新幹線を待つ。

 ここからさらに30分、乗客もそれほど居ない車内でコーヒーを飲み、ただただ暗い車窓からの景色を拝んだ。

 彼女に会って何を言うか、どんな振る舞いをするか、ご両親にきちんと挨拶をすべきか。

 いまいち考えがまとまらないまま新幹線は彼女の故郷へ到着してしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...