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ウズ編・瀬戸内ひとり旅
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しおりを挟む田舎とは言えそれなりに栄えた観光地、そこに彼女の実家はある。
なんとなく最寄駅は分かる気がするが、乗り換え案内を調べるとどうも各駅停車の新幹線しか停まらない駅のようだった。
大きな駅まで特急で行って各駅に乗り換えるプランを採用し、自由席で1時間30分の一人旅が始まった。
さっきの文面は怒ってる風にもとれるが喧嘩をした覚えもない、一か八か
『なんの用事?きいてへん。さみしい』
とメールを送ったものの、返信は来ない。
この間に事故でもあったか、人攫いにでも遭ったか、もしや俺はとても重要な話を聞き逃したのかもしれない。
例えば、別れ話であるとか。
新幹線はどんどんと西へ進んで行くのに未だ返信は届いておらず、そもそも実家に帰るというのが嘘のパターンもあるのでは、と新たな疑惑も浮かんでくる。
「逃げるんやったら行き先なんか書かへんもんな…」
ただ悶々と、俺は数回喫煙スペースへ行っては煙を燻らせた。
志保との出逢いは中学生の時、向こうが親の転勤か何かで引っ越して来て同じクラスになったのがきっかけだった。
スラリと長身細身で美しくて賢くて、一目惚れした俺は毎日のようにアタックをして毎度振られても諦めず告白し続けたのだ。
俺たちが高校を卒業する年に彼女の親は広島の父方の実家へ戻ることになり、大阪の大学進学を決めていた志保だけこちらへ残して引っ越すことになった。
既に同級生のナリとお笑いの養成所に入ることを決めていた俺は志保のご両親へ「一緒に住まわせて下さい」と頼み込み、相方カップルも含めて4人で生活を始めて…今に至る。
一人暮らしよりは安全かと俺を信用してくれたのも嬉しかったし、寝ても覚めても志保と一緒に居られるのはこの上ない幸せで。
しかしなにぶん財力に乏しいので家計は火の車だった。
それぞれにアルバイトなどして志保は大学に行きながら家事も頑張ってくれて、俺も本業を頑張りたいのだがなかなか芽が出ず月日ばかり過ぎる。
そうして志保は大学を卒業して手堅い企業に就職、俺はそれからさらに燻り続けしかしだんだんと認めてもらえるようになって…芸歴11年目の夏にやっとテレビのレギュラーを勝ち取った。
近況といえばそんなところ、まだアルバイトは辞められないが明るい未来が見えてきた感じがしていたのだが…志保は何か俺に言えない不満を抱えていたのだろうか。
「んー……皿洗い忘れたんがアカンかったか…?」
50分ほど乗ったら最初の乗り換え、向かいのホームへ移動して7分、まだかまだかと各駅停車の新幹線を待つ。
ここからさらに30分、乗客もそれほど居ない車内でコーヒーを飲み、ただただ暗い車窓からの景色を拝んだ。
彼女に会って何を言うか、どんな振る舞いをするか、ご両親にきちんと挨拶をすべきか。
いまいち考えがまとまらないまま新幹線は彼女の故郷へ到着してしまった。
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