枯れかけのサキュバス

おまけ（全９話）

ブルー・ドラゴン 2

　出産以降、唯さんは京都の実家にお世話になることが決まっている。

　妊婦健診はギリギリまでこちらでして、お産は実家近くの産院へ引き受けてもらうよう取り計らってもらった。

　もうすぐ産前休暇、それをキッカケに唯さんは里帰りを開始するつもりでいる。

「ここから通えないことも…」

「新幹線でも１時間やぞ、お前、うちと腹の子が心配やあらへんの？」

「心配ですよ、でもギリギリまでこの家で過ごす訳には」

「…龍ちゃん、そんなことで生まれてくる子のこと可愛がれんのか？」


　冷たい眼差しに、言葉を失う。

　「できますよ」と言ってやりたいが、絶対の自信が無い。

　お腹の子の性別は男、お察しの通り僕は唯さんを彼に盗られることに嫉妬しているのだ。

　付きっきりで、お乳を吸わせて、添い寝必須で常に抱かれて。

　憎いのではない、羨ましいのだ。


「お世話はきちんとします。でも、僕に割かれる愛情が減っちゃうのが寂しいです」

「可愛がれへんか」

「違う、虐めたりはしません！でも、可愛いかどうかは…すみません、まだ分かりません…」

　望んで子を宿してもらったのに、いざその存在が大きくなると僕はこんなにも無様な姿になってしまった。

　子供返りとも違う、むしろ手間を掛けないように自分のことも唯さんのことも率先してこなしている。

　最近では先ほどの戸棚の件みたいに、唯さんの方から僕に手柄を立てさせようと動いてくれている。

　情けない父親で申し訳ない、そんな気持ちで過ごしていた。