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エピローグ・失策のサキュバス
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しおりを挟むそれから半月後。
唯は職場で休憩中に夕方出勤のレジアルバイトの男の子から突然声を掛けられる。
言わずもがなそれは葉山だったのだが、賢者タイムにどっぷり浸かったユイはすっかり彼の事を忘れてしまっていた。
「笠置さん、お久しぶりです」
「…おつかれ…?(なんや、こいつ見たことある…最近どっかで…テレビか?)」
青年は長机でサラダを食べる唯の耳元へ屈んで、
「貴方に童貞をあげた龍ちゃんですよ、」
と爆弾を落とす。
何となくの思い出と顔と名前と、朧げな記憶が合致して、持っていた箸を落とすくらいに彼女は動揺してしまった。
「…………っあ‼︎…」
「ありゃりゃ」
葉山は落とした箸を拾い上げ水道で洗って返してやると、受け取った唯は口に入っていたものをゴクリと飲み込み、目をパチクリとさせながら青年を見つめる。
「笠置さん、仕事終わり待ってますから」
そう小声で言い残して売り場へ向かう彼はニコニコとしており、唯はよもや強請られることは想定していなかった。
結果としては似たようなことになるのだが。
退社時間に葉山は駐車場に現れ、一番の望みを叶えるよう押しに押してきた。
「ユイさん、彼氏にしてください」
「要らん、縛られるんはイヤや」
人目が気になったのでとりあえず唯は葉山を車の後部座席へ乗せ、人通りの少ない公園へ向かうことにする。
「そもそも、お前うちのバイトやったんか?いつから?」
「いえ、ユイさんと出会った5日後くらいから。レジと品出ししてますよ」
「…偶然?ちゃうよな、どういうことや」
「ふふ…知りたいですか?」
葉山は運転席の後ろから唯の髪をくるくると指に巻きつけた。
「…ストーカーでもしたか?」
「んー、当たらずとも遠からず、キスしてくれたら教えようかなー♡」
「はぁ、」
運転中でなければ奴の腹を殴っていたかもしれないが、唯は額に青筋を立てながら舌打ちだけで済ませ、目的の公園より手前の角を曲がってしまう。
車はまだまだ人気の多い遊戯施設の立体駐車場へ入り、エレベーターから遠い壁際の角へ停めた。
そしてシートベルトを外して後部座席へ振り返り、「キスしに来い」と潤った唇を薄く開く。
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「…んで?どうやってうちの職場が分かった?」
青年は乙女の様に口元を押さえて言葉にならない様子だったが、切り替えの早い唯に合わせて唇をムニムニと触りながら白状する。
「まず…会計する時、クレジットカードがゴールドでした。わざわざ年会費とか払ってまでこんな若い方がゴールドカード持つかなって…そう思いました。あとそこにムラタのロゴが入ってた。家電量販店発行のクレジットカードをゴールドでわざわざって…会社から斡旋されて作ったのかなー、なんて…気に掛かったんです」
「ほぁ」
彼の読みは当たりで、ムラタでは入社時に社員全員に自社クレジットカードを作らせて持たせているのだ。
会社としても契約件数が上がるし、不要なら使用しなければいいだけで、在籍する間は年会費免除なので双方にとって悪い話ではないらしい。
「あとお行儀悪いですけど、サインとか、カードのお名前の印字とか…覗き込んで断片的に見ちゃいました」
「マナー違反やな」
「すみません…あと、ユイさんは僕を置いてシャワーしに行ったでしょう?あの間に財布とカバンを見せてもらって…あれ、サブの財布ですね?会社の行き来とか、ああいうワンナイト用。身元を知れるカード類が入ってなかった。なのでレシートを拝借しました。最寄りのコンビニとか、本屋、なんとなくの生活圏が分かって…あとカバンの底にレシートが落ちてて…ムラタの買い物の。カップ麺とかお菓子とか…家電屋でわざわざ買うものじゃないし、職場なのかなって。クレジットカードのロゴとも繋がって…帰りに『接客業』って仰ったでしょう、次の日に行ってみたら案の定ユイさんがいた」
「なるほどね、うん、初対面の割に信用してたから財布置いて行ってんけど…甘かったなぁ」
唯も快楽に伴うそれなりの危険は覚悟しているので、盗難や無理強いなどある程度の犠牲は自己責任だと割り切っていた。
葉山の推理はほぼ当たっていて、彼女は免許証や保険証などを入れた本当の財布は家に置いている。
スマホケースの背に件のクレジットカードだけ挿しておけば大概どうにかなるし、そのスマホだけは風呂場へ持って入るくらいの自衛はしていた。
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