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1月・純化したサキュバス
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しおりを挟む交通費の算出に必要なこの書類、二人はスマートフォンで航空地図を映してなんとなくのルートを書き込んでいく。
「ここやね?これが国道で…合ってる?」
「はい、ここ…所要時間は20分とかでいいんでしょうか?この半分の日もあれば交通量によっては全然進まない日もありますけど」
「しやね…算出は距離で出すんやろうから、20分にしとこか」
これは本社へと送る書類、所属の管理職の印鑑が要るため必ず二人の上長である守谷フロア長へお目通りさせねばならない。
「守谷フロア長、何て言うでしょうか」
「んー、疑われてもないもんな、うちら」
フロア長の次は店長へ、同時期にこの書類が発生すること自体も珍しいのに、書いてある住所が同じときたらそれは触れずにはいられないだろう。
「口止めしてもらいましょうか、従業員とはいえ個人情報の取扱いは慎重にされると思います」
「しやね…守谷フロア長に知られたら普通に雑談の中に放って来そうやけど……まぁ覚悟はしとこ」
それぞれ貴重品袋から出した印鑑をぐりぐりと押して、唯が書類をクリアファイルに収めれば、葉山は意外にも泰然としてその様子を眺めていた。
「ふふっ」
「…なに?」
作業が済めばすぐにでも飛びつくかと思っていたが拍子抜けし、穏やかな瞳で自身を見つめるその顔を撫でてやる。
「焦らされ過ぎて…賢者の気分です」
一筆一筆足す度に心身が落ち着いて、申請書ができ上がる頃には青年の猛りは嘘のように凪いでいた。
「あれ、悟り開いてんね」
「ユイさん、前に話した時はなぁなぁになっちゃいましたけど…そろそろペアの物、何か欲しいです…」
おそらくだが頭を突き合わせて記入した書類から青年は婚姻届を連想したのだろうか、唯の指をふにふにと触っては愛おしそうにはにかむ。
「ペンダントとか…キーケースとかか?腕時計はちゃんとしたの着けてるやろうし…あ、パジャマはお揃やんか」
「んー、外で身に着ける物で…」
指輪は結婚指輪に限られているしピアス類は禁止、しかし葉山は「仕事中でも恋人を感じていたい」という意味でおねだりをしているのだろう。
唯は珍しく幼気に見えた恋人に心打たれ知恵を絞った。
「休みだけ指輪してもええけど…失くしそうやな…社員証入れるパスケース、ボールペン…は書き心地の好みあるか…、制服と無線は元々お揃やし…」
「はい、」
「しや、ボタンなんかはどやろ」
唯がパチンと指を鳴らして人差し指を立てる。
「ボタン……ですか?」
「ワイシャツのボタン、ボタンダウンのここだけ、バレへんギリギリの…あかんかな?」
社則で定められているワイシャツは白のボタンダウンシャツ、その襟を留めるボタンを取り替えてはどうかと唯は提案しスマートフォンのショッピングアプリを開いた。
手芸用品ジャンルから裁縫材料カテゴリのボタン項目のページを開いて、検索バーに「イニシャル」と入力すれば数種類がヒットする。
「わ、ありますね…白地の、こんなのは目立たなくて大丈夫そうですね」
「ね、うちの『Y』と龍ちゃんの『R』な。半袖と長袖やから…20個ずつくらい注文する?多いかな?」
「足りると思いますよ。……1個ずつ手縫いですね、共同作業だ…ユイさんボタン付け出来ますか?」
料理が得意なのは知っているが裁縫はどうか。
良い機会だと葉山はスマートフォンで注文画面を触る彼女を覗き込んだ。
「出来るて。副教科もしっかりやったから大丈夫や」
「なら注文お願いします……なんか嬉しいなぁ、ユイさんが乗り気になってくれて…嬉しいです、僕の城にユイさんが来てくれた……ふ、」
「え、龍ちゃん」
マイペースで腹の読めない青年の頬に伝う涙、隠しもせず泣き始めたその姿に唯はスマートフォンを置いて立ち上がり、頭を撫でようと手を伸ばす。
「龍ちゃん…?」
「ごめんなさい、嬉しいんです…あ、ごめんなさい…ほんま…あかんわ…まだこれからやのに…」
「よしよし…ん、注文確定……っと。…まだ昼間やけど…お姉さんが抱いたろ、どっちの部屋にする?龍ちゃん」
そばへ寄って頭ごとぎゅうと豊かな胸に抱き、そう囁やけば穏やかだった青年が泣きながらもピクリと勢いを取り戻した。
「ぼ、僕の…僕のベッドがいいです…あかん、情けな…」
「うん、龍ちゃん…大丈夫や、ええ子ええ子したろ、上がろね」
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