枯れかけのサキュバス

茜琉ぴーたん

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8月・復活のサキュバス

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 県道沿いのファーストフードのドライブスルーで夕食を買い、それを持って郊外のホテルへ向かう。

「キレイなとこやんか」

「ですね、部屋ごとにテイストが違うそうですよ」

二人は徐行中の車内から部屋案内を確認した。

「ほぁー、やる事は一緒やのにな」

「気分が違いますよ、こことかは電車ですね、座席と吊革…」

「おもろいな」

「…こっちにしましょう、かわいい」

 葉山は駐車スペースに停めて、唯をエスコートして館内へ入る。

「手慣れてんね」

「誰のせいだと思ってます?ユイさんとは、京都の街のホテルはほとんど網羅したでしょう。パターンくらい覚えますよ」

「かっこええやん」

「ここだ…どうぞ」

 唯は先に部屋に入るが、全体的にピンク色の少女趣味な部屋、その煌びやかさに圧倒された。

「うわ、天蓋てんがい…カワイイ。お姫様の部屋やん」

「本当ですね…色気無いですけど…いただきましょう」

葉山は荷物を下ろし持参したスキンの箱をベッドに投げ、テーブルに食事を広げる。

 何となく静かに、二人は買ってきたチキンのセットをもくもくと食べた。

「なぁ、龍ちゃんはAVとか観んの?」

持て余し退屈した唯は、インフォメーションが絶えず流れるテレビを地上波に切り替えた。

 そして唐突に性的な趣向の話を始めれば食事モードの葉山は

「………黙秘します」

と唯を睨む。

「なんでよ、今更隠さんでも…」

「食事中は…慎んで下さい」

「んー、何系が好き?JK?OL?筆下ろし?」

唯は何となく、葉山くらいの若者が好きそうなジャンルを並べて挙げてみた。

「黙ってください」

「うちはね、女装子とかニューハーフものが好き。女の子と絡むやつね。きたないおっさんのは観てられへん」

「なにそれ……ご馳走様です…シャワー浴びてきます。ゆっくり食べて下さいね」

「へーい」


 少量のセットにしていたので唯もすぐに食べ終わってしまい、

「美味かった…」

と呟いては肌着だけの軽装備になる。

 そして天蓋ベッドにダイブしてうつ伏せになり、目を瞑って少し気になっていることの考え事を始めた。

「風呂…な…」


 葉山は唯とのセックスには執着するくせに、入浴には一切それが無いようだ。

 いつもすりすりと体に頬擦りをしたり、抱きしめてご満悦だったりするのに、だ。

「(好きやとか上手いこと言うてるけど、結局セックスしか興味ないんやろか…でも抱きついて寝たりするよな…風呂が嫌い?ってこともなさそやし…うちの体、やっぱりちんちくりんで見苦しいんやろか………んー……あかん……寝てまう…)」



「……さん……ユイさん…、寝てまう気ですか?ユイさん」

 馴染みのある声で唯がうつつに引き戻されると、バスローブ姿の葉山が顔を覗き込んでいた。

「あ…」

「牛になってまいますよ、ふふ」

「…」

 瞑想しているうちに、思ったより時間が経っていたようだ。

 顔を上げて見回せば、ベッドサイドにもミニテーブルが設置してあることに唯は気付く。

「あ、」

 ご飯を食べたテーブルの反対側なので見えなかったが、ベッドより少し低いその天板に、スティックタイプの電動マッサージ機が置いてあった。

 もちろん、本来は名称通りの用途なのだが、違う目的で使われることが多い。

 唯はそれをつい凝視してしまうが葉山も同じタイミングで気付いたらしい、しかし彼は神妙な顔をしていた。

「…どした?なんや恐い顔して」

「いえ…僕も理美容の売り場に立ってたことあるので、これ売り場で見たことあるんですよ。若いカップルさんとか、商品の前でコソコソ色めき立っちゃって、ニヤニヤして通り過ぎたりするんですよ。メーカーさんのことを考えると、居た堪れないんですよねー…」

「…はは、芯から家電屋やな、よしよし」

 葉山は唯の隣に仰向けに寝転がる。

「ちょっと、気分萎えちゃった…ユイさんはどうですか、使ったことあります?」

「んー、無い、とは言わんけど、強すぎて痛いから嫌いやな。あれ、それこそファンタジーちゃうか?」

唯も葉山の方へ体を向けて顔を見せてやった。

「なるほど」

「それ専用の道具がやっぱり勝手はええと思うよ」

「…持ってるの?ユイさん、バイブとか?」

のそのそ動き、唯をぎゅうと抱き締めながら、葉山は尋ねる。

 湯上りの体が温かく湿っていて、良い匂いもするし唯の性欲をくすぐった。

「いや、……あー、言わへんよ」

「けち、今度買いましょう?セックスできない日でも遊んであげられます…あ!」

 唯は素早く起き上がって葉山の体に跨り、呆気にとられたその顔を見下ろす。

「危険日はお前を虐めるから、道具は無くてええよ」

「…それが嫌なんだよぅ」

「調べたんやけどな、貞操た」

「嫌です!」

「お前、若いのに性知識すごいな」

「もう、僕を虐める流れ、マジで嫌だ」

ニコニコと見下ろす彼女へ仰向けのまま両手を伸ばし、唯の手を恋人繋ぎで捕まえる。

 そのまま腹筋の要領で上体を一気に起こすと細い体が強張った。

「うお、」

「このまま、そっち側に押し倒します」

「えっ、やっ」

 繋いだ手に力を入れぐぐぐと唯を倒していく、跳ね橋を下ろすように、たるまないように。

「っあ、」

 頭が着地すれば、脚を抜いて馬乗りになるだけ、立場が逆転した。
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