枯れかけのサキュバス

茜琉ぴーたん

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8月・復活のサキュバス

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 それから5日ほど葉山は大人しく、唯も敢えてこの話題に触れずにいた。

 久々に葉山の待ち伏せに遭ったのは二人の共通の休みの前日で、

「お……龍ちゃん?」

薄暗い駐車場の車の向こう側、ぴょこっと人の頭が飛び出していた。

「お疲れ様です、ユイさん……家に行っていいですか?」

彼は珍しく気恥ずかしそうにして、乙女のように伏し目がちな目元が儚げであった。

「…ええよ?乗る?」

「はい」


 葉山が大人しいので唯はなんとなく調子が狂う…車を出し、彼女の方から話し掛ける。

「龍ちゃん、うちが転勤してから頑張ってたんやな」

「……はい」

「去年、姿を見せんくなってたんは、ばりばり働いてたからか」

「…はい。実務経験を積んで、絶対にユイさんと同じ会社に入りたかったんです。会いに行く電車代も掛かるし…趣味と実益っていうか…売り場に立ち始めると働くのが楽しくなっちゃって、大学最後の年は本当にめちゃくちゃ働きました。親の扶養から外れちゃったりして…白物ばっかりだったのは誤算でしたが…」

 なるほどそれでは忙しくて逢いに来れなかったはずだ…本末転倒だとは思うが。

「フロア長に口止めしたのは?黒物は自信なかった?」

「それもありますし、新人らしくしないとユイさんに構ってもらえなくなるから…まぁ、実際に構ってもらえませんでしたけどね」

 停止線で車を停めると、信号機の赤色が二人の顔を照らす。

「うん、だって龍ちゃん仕事できるんやもん。あ、手料理でええか?何か食べて帰る?」

「いえ、」

 葉山はコンソールに置いた唯の手に触れ、

「セックス前はごはん、食べないでしょう?」

と誘い文句を囁いた。

「………はぁ、そういうことか」

「周期忘れてましたか?」

「忙しいし、お前は大人しいし、調子狂ってな。あんま発情してへんなぁ」

「そうですか…どちらでもいいですよ、僕は抱きますからね」

青年は素っ気なくそう宣言して、窓の外へ視線を外してしまう。


「…なぁ、明日、揃って休みやんな。…夕食しっかり食べて、お腹落ち着いてから励もか?」

「えっ」

 唯からの嬉しい提案に、葉山は振り向き目を丸くして…

「ユイさん……したら、ホテルにしましょう♡思い切り声出して、チェックアウトまで居りましょうよ」

そして声の調子を戻して増長した。

「はぁ、持っていく物あるか?」

 今ちょうどアパートの前に着いたところだったので、二人は一旦部屋へ戻ることにする。

「そうですね、着替えは取って来ましょうか。身支度する物も無いと不便でしょうし」

「せやね」

 洗顔用具や使い慣れたスキンを箱ごとカバンに入れ、揃って仕事着から部屋着に着替えた。


「僕、運転しますよ」

「ほなお願い。何食べよか」

「んー、部屋着ですからね、限られますよ?」

「そうか…知った人に会うかも分からんしな…したら、テイクアウトで何か持って入ろか」

「今回はそうしましょうか、バーガー?チキン?」

「チキン!」

「では行きましょう♡」

 葉山は彼女の手を取り、ニコニコと部屋を後にする…彼が元気になって、唯は喜ばしく思う。
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