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7月・枯れかけのサキュバス
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しおりを挟むどんどんと心拍が高まりあと10メートル、敷地内に入ったところで葉山は唯の手を握った。
「お、い…」
カンカンと階段を上がる音が響く、主導権を握った男の
「開けてください」
の声で唯が解錠し、ゆっくり扉が開く。
「…挟むなよ」
「ふふ、気ぃ付けます」
「手ぇ、大丈夫か?」
「平気ですよ、寝る前に、買った湿布貼りましょう。…お手洗い借ります」
「…うん、そこ左な」
唯はぽかんとしばし固まって、ゆるゆると靴を脱ぎ、エアコンがついたままのリビングへ入った。
「(あれ…?)」
てっきり、あの勢いでベッドまで雪崩れ込むのかと構えていたのに、肩透かしを食らった。
急いてしまって恥ずかしい。
「…ふぅ…」
年上の余裕、を装わなければならない、唯は緊張していた。
程なくしてトイレから出てきた葉山がリビングを覗き、
「ユイさん、油性ペンとハサミありますか?」
と尋ねてくる。
「?待って、ほい」
唯は隣り合った部屋からペン立てごと持ち出し、座卓へ置いた。
「僕まだ書けないから、代わりに書いてもらえますか」
買った物を袋から取り出した葉山は、ユイの物と混同しないようにそれぞれに「りゅう」と書かせる。
パジャマのタグも外し、いつでも着られる状態になった。
「これも」
と、葉山がスキンを差し出せば、
「…書かんでええやろ…お前しか使わへんのに……てかLかい……」
と唯は今更だが照れた。
「前より大きくなりました。これ…僕が居らんくてもお守り的な」
「いや、いらんから…」
そう言いながらフィルムを外し、大きく「りゅう」と書いてやると、葉山が下唇を噛んで渋い顔をした。
これは彼の感極まって泣きそうな時の仕草だ。
「ほらよ、まだあるか?」
「これも」
「何箱買うてんの!?」
「3箱……予備ですよ……以上です」
「うし、ほな、先に風呂入る?シャワーやけど。そこ出て左奥な」
油性ペンのキャップを閉めて、唯が廊下への扉を指し示す。
「いえ、」
「ぅわっ」
葉山はそのペンを抜いて机に置き手を掴んでから、ここに来て初めて正面から彼女を抱き締めた。
靴を脱いだ彼女との身長差は実に26センチ。
「………はぁ。…あー、ユイさんや…あー、あぁ…ほんまのユイさん」
「珍しないやろ」
「笠置コーナー長ちゃう、ヒール履いてへん、ほんまの大きさのユイさん。僕の…」
「お前のちゃうよ。いや、汗くさいやろ…」
「ほのかに。でもそれがいいー…滅多にハグさせてくれないし…この匂い初めてです」
青年は一度離れ、唯の小さな顔を見る。
「ね、名前で呼んで下さい」
「ん、……龍ちゃん、」
そして感無量、といった表情で抱き直し、
「あー、あぁ…あかん…勃ってきた」
と正直に伝えてしまった。
確かに、唯はお腹の辺りに硬いものを感じている。
「こんなんでか」
「僕、3年以上ご無沙汰なんですよ?ユイさんの匂いに当てられてもう…」
「他に彼女作りゃええのに…モテるやろ?」
「ユイさん以外に反応しないから彼女なんて意味ないし…ユイさん追いかけるのでいっぱいいっぱいで」
「ストーキングな」
「ねぇ、さっきの続きを」
「いや、風呂」
「余裕あるフリももう無理、あ、ユイさんも照れてるんでしょ。疼いてるくせに」
どうやら葉山も余裕ぶっていたらしい。
スキンを1箱ポケットに挿し、ポンと赤面した唯を持ち上げそのまま縦抱きにして立ち上がった。
「きゃあっ」
その肩に唯のたわわが鎮座するも葉山は表情は崩さず、
「ねぇ…寝室は?」
と巨人の如く尋ねる。
「あ、そこの…」
「入りますね」
リビングの壁面の扉を開けると寝室に通じ、照明をつけると適度に散らかったクローゼットや読みかけの本、彼女の日常が明るみになった。
「可愛い部屋」
「帰って寝るだけの部屋や。可愛いことあれへんよ」
「生活感があっていいですよ。ほら、パジャマ一緒」
脱ぎ散らかしたパジャマは葉山の指摘通りのキャラクターのものだった。
唯をベッドに下ろして立たせると、葉山は珍しく彼女に見下ろされた。
「ユイさん、そのままで。前はユイさん主導でしたけど、今日は僕に合わせて下さい。無茶な要求はしませんから…あんな脅迫しておいて今更ですけど、好きじゃなくてもいいんです。嫌わないでくれたらいいんです。…頭抱いてもらえますか」
「ん」
豊満な胸に頬を当て、ギュッと抱き締めてもらうと葉山はスリスリと頬ずりをして、気が済んだのかワイシャツの胸元を開き始める。
「やっぱり…前より大きくなってませんか」
「なってるよ。身長分の栄養が全部胸に行ってるってよう言われるわ」
「⁉︎………誰ですか、その不届き者は」
葉山は分かりやすく怪訝そうな顔をした。
「ミツキ。白物の刈田や。仲ええねん」
「あぁ、なんだ…女性ならセーフです。助かりましたね」
「男やったら何する気や」
「社会的に殺しますよ」
「お前やったらやりそうやね」
「龍、」
胸に埋もれた青年は名前を呼べと主張し、
「あぁ、龍ちゃん。嫉妬の鬼やな、龍ちゃんは」
頭を撫でて名前を呼んでやると葉山は子供のようなあどけない顔をする。
唯も彼のこういう所は気に入っていた気がする。
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