上 下
4 / 100
7月・枯れかけのサキュバス

4

しおりを挟む

 そんな唯と葉山は、京都の店舗時代からの仲である。

 出会いは相席居酒屋で、大学生のグループの中で一際顔が好みだった葉山を彼女がこっそりお持ち帰りし、その日の内にホテルで関係をもった。

 そして特に連絡先を聞くこともなく別れている。

 彼女は名前さえも翌日には忘れていた程の無頓着ぶりだったが、数日後に職場のレジバイトに葉山が応募してきたことで状況が一変する。

 葉山は唯を追いかけてバイトを始め、熱いアプローチを掛けてきたのだ。

 元より彼氏など不要な唯は葉山をバッサリと切り捨てたが、熱烈なアタックに根負けし、セフレで良ければ、との条件で再び関係を持つようになった。

 自分がしたい時にセックスの相手をして貰うだけの付き合いで、唯の都合で呼び出して服も脱ぎきらず跨がる、彼女本位のセックスのみ。

 もちろん会社内にバレないよう店内では一切の接触を持たなかった。


 一方で純な葉山は手練てだれの彼女にハマったが、より好きだったのは彼女の飾らない性格や尊敬できる仕事ぶりであった。

 ホテルまでの道中や帰りの食事を「デート」と呼んで有り難がり、会話から感じる彼女の人間性に深く惹かれていく。


 そんな二人のただれた関係は2年ほど続いた。

 そのゆるゆるとした付き合いの中転勤の辞令が下りて、唯は相談もせず迷うこともなく兵庫へ異動してしまう。

 彼女は進学・就職・転居・転勤、節目節目で面倒な人間関係も男もリセットして生きてきた。

 これまで追いすがる人は居なかったし、今回も同じだと思っていた。

 だが結論としては、彼女の予測は外れる。

 それというのも、唯が転勤で関係を切ろうとしたのに対し、葉山は遠距離恋愛のつもりで、数ヶ月ごとに京都から越境して逢いに来たのだ。

 しかし店に逢いに来ても唯は接客しかせず、私的な接触は全くさせなかった。

 そしてここ1年程は葉山も忙しくなったのか飽きたのか、めっきり姿を現さなくなっており、異動から既に3年、唯は彼のことをほぼ忘れていた。


 それがこの4月、黒物の新人だと店長から葉山を紹介され、唯は心臓が縮み上がる程に驚いた。

 しかも葉山は「バイト時代にお世話になったから気心知れてる」と店長に触れ込み、唯が教育係になるようちゃっかり根回しをする。

 教育係と新人は同じシフトで動くので、休みも入り時間も休憩のタイミングも全て一緒になった。

 昔寝た男が自分のテリトリーに入ってくるのは非常に都合が悪い。

 唯は公私をしっかり分けるタイプで、どんなに好みだろうが会社の男には手を出したことが無い。

 再度関係を迫られても、昔のことをバラされても、どう転んでもいいようにはならない…面倒は御免だが考えがまとまらないまま、とりあえず静観している形となっていた。


 葉山はバイト歴が5年、レジも接客も手慣れているため、唯はいきなり売り場での実戦に投げ込み、手取り足取りの教育は行わなかった。

 おかげで独り立ちも早かったが、唯と接触ができず、隣にいてもプライベートな話をしてくれず、業務時間内は無駄話をさせず。

 終業後は避けるように帰宅され、唯に蔑ろにされた葉山は面白くなかった。


 ちなみに意外なことに唯は今も恋人など居ないばかりか、この地で未だ男を食ってすらなかった。

 生活が変わったストレスなのか生理周期が乱れ避妊もままならず、それどころか発情さえ起こらなくなったからだ。

 休みは家で泥のように眠り、たまに同僚と遊び、普通の暮らしが出来つつある。

 なんと驚くことに、昔のことを「恥ずかしい」と思えるくらいにはその意識が変わっていたのだ。

 そしててっきり性欲も枯れたものだと思っていたが、葉山が来た春頃から生理周期も復調し、ぼちぼち恋愛でもしたいなーなどとぼんやり思い始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

一夜の男

詩織
恋愛
ドラマとかの出来事かと思ってた。 まさか自分にもこんなことが起きるとは... そして相手の顔を見ることなく逃げたので、知ってる人かも全く知らない人かもわからない。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

処理中です...