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7月・枯れかけのサキュバス
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しおりを挟む7月上旬の金曜日の夕方。
土日を控えて客足は鈍いが、それでもエアコン目当ての客が絶えない。
休憩も小分けに回して行くのだが、とりわけ喫煙者は時間を見つけては裏口の喫煙スペースへ足を運んでいる。
この時間、喫煙所ではチーフフロア長の嘉島(47歳)が疲れた顔で煙を燻らせていた。
そこに建物から出てきた唯がベンチの横にお腹を押さえてしゃがみ込む。
「…笠置さん…禁煙したんじゃなかったっけ。体調悪い?」
嘉島はベンチにかけたまま、膝に肘をついた姿勢で目線だけ動かし唯を見る。
夕日も沈みかけ、辺りは薄暗い。
「しんどくて…副流煙分けて下さい」
「…俺のでいいの?…ちょっと待ってね…」
彼は大きめに吸い込み、体を起こし顎をクイと上げて、肺に入れた煙を吹き出した。
「ふーー……」
唯は立って顔を近づけ、煙を手でパタパタと口元へ持っていき
「ア~~、うまい」
と煙を喫む。
立ち上がった瞬間に大きな胸が揺れ、鼻先をツンと上に持ち上げると白い首筋が、喉が、開いた口が、性を意識させる。
「他に人が居なくて良かった」と嘉島は強く思うのだった。
「…そりゃ良かったよ、なにかあった?」
「大丈夫です。さっきデッキの修理説明ついたら『女じゃ当てにならん、男と代われ』言われて、ちょっとイライラして」
「そうか…」
女性社員の多くが通る道とは言え、唯のような中堅でもまだこのような扱いを受けてしまう。
「誰が付いた?」
「うちの葉山が。でもアイツ、ビデオとか世代やあらへんでしょ、知識は有っても実物見んの初めてやったらしくて。メーカー自体無くなってたし、裏で指示出してダビング専門店に誘導しました」
「わかった。うちはもうデッキ自体扱いが無いから替えも無いしね…希望に添ったベストだと思うよ。…てか笠置さんもビデオ世代じゃないよね?俺はそうだけど」
「ギリ世代とちゃいますか?AV機器の歴史は一通り浚いましたよ、レコードもブームきてますしね」
黒物の話になると唯は饒舌になる。
にこやかで、くだけた方言が可愛らしいのだが本人はそれを隠したがる。
「…笠置さん、もう少し、自然体で接客しても良いんじゃない?鎧を着込んでるのは疲れるだろう、明らかにストレス溜めてるじゃない」
「はは…彼氏にも同じようなこと言われましたわ…」
「あれ、いい人できたんだ」
唯は飲み会等で管理職席に座るので、プライベートな情報もある程度やりとりがあるし、なんなら下ネタ耐性もある。
今は会社敷地内だからまだ抑えが効いているが。
「ふふ、」
「羨ましい、枯れたって言ってたのに。そういや、なんか艶があるもの」
「いやぁ、そんなこと言って、チーフもおモテになるでしょ?」
「イヤミだなァ、幾つだと思ってんの?ご無沙汰よ」
「あれ、枯れたんですか」
「まだいけるけどね!」
その時、数人が館内からこちらに向かって来るのが見え、唯は話を止めて立ち上がる。
「……ふぅ、愚痴をすみませんでした、失礼します」
早くもモードを切り替えて仕事へ戻って行くその背中へ、
「笠置さん、あんまりなら、また時間作って話そうね」
と嘉島が声を掛けたが、彼女は振り返り会釈だけして、館内へ戻って行った。
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