枯れかけのサキュバス

エピローグ・失策のサキュバス

76

　ある年の、ある日のこと。

「ユイさん、コレ、ここ何の日か覚えてます？」

唯ゆいの寝室に貼ってある今年の年間カレンダー、その８月のとある日を指しながら葉山はやまがベッドへ振り返る。

　床に落としたボクサーパンツを履くため立ち上がったはずなのに、彼はいまだに剥き身のままなので振り子のようにモノが揺れた。

　事後の気怠さの中で受けた質問に唯は考えるフリもせず、

「知らんな」

と即答してベッドにうつ伏せになる。

「でしょうね、まぁそうでしょう。なんとこの日は、僕とユイさんが初めて結ばれた日です！」

　葉山は自信満々に答え、内心そんな事だろうと張っていた唯も「へぇ～」と気の無い相槌を打つ。

「つまりは、ユイさんの淫行が行われた日なんですよ」

「もぉええって…忘れてくれよ…」

口を押し付けられたシーツが管楽器のリードの様に振動した。

　この先死ぬまで彼が言い続けるだろう「淫行」、唯を弱らせるこの呪縛の言葉が生まれた出来事、それが彼女と葉山の始まりであった。