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おまけ・11月

葉山家の人々・中編

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「どやった、ユイちゃん、可愛かったろ?」

「ほんまにね、カチッとしてはる。恋人がいます、てハッキリ言うたわよ、ええお嬢さんやわ♡」

 商品棚の端で身を寄せ合ってゆいについて語るのは、葉山はやま俊司しゅんじ佳乃よしの夫妻…言わずもがな、葉山青年の両親である。


 葉山夫妻はメインレジで商品を購入し、隣のカフェコーナーでチケットを使ってコーヒーを2杯頼んだ。

「ちいこいのに気が強そうで…りゅうが惚れるんも分かるわー、どうする?戻って挨拶しとくか?」

「いやぁ、いきなり両親が出てきたら萎縮するやろ、黙って帰ろ、龍も元気に働いとるみたいやし」

 葉山青年は実家暮らしだが、週1回は唯の家に外泊をする。

 成人しているし人様に迷惑さえかけなければと放任しているのだが、息子から「彼女と同棲する」という話を聞き相手の偵察に来た次第である。

「なんや…チャラついた子やったら注意しよう思たけど…しっかりしてそうやわ。姉さん女房、ええやんか」

「はぁ…早めに正体明かして、一緒に料理したり遊んだりしたいわぁ♡」


「(あのご夫婦…葉山くんのご両親かな…似てるなぁ…)」

 2人はカウンターの吹竹ふきたけに見守られながらコーヒーを片付け、ゆったりしてから店を後にした。





「龍ちゃん、龍ちゃんの家の辺りって、『葉山』姓は多いん?今日な、『葉山さん』ってお客さんの接客してん」

「んー…市内に親戚はいますけど…割とどこにでもある苗字ですよ?」

「そうかぁ、せやね…」

 今夜も葉山青年は唯の部屋でだらりと過ごしている。

「龍ちゃんの…ご両親って、どんな感じ?」

「どんな?んー…父は理系の開発関係で…母は教育系…でも割と気さくで…話しやすいですよ、冗談も通じますし…あと兄もいます。なに、ご挨拶に来てくださるんですかぁ?」

ナイスミドルは開発者のような雰囲気だったかもしれない、ご婦人は教育系の感じだったかもしれない…?

 確証を得られないから詮無き事だが、唯は記憶を辿って答え合わせをする。

「いや…難しい人やったら…しんどいなぁて…」

「大丈夫ですよ、うちの親はきっとユイさんの事を可愛がってくれます。僕も可愛がりますから」

「んー…」

 彼の両親が唯ヘその正体を明かすのは、もう少し先の事である。





 またある日。

「お姉さん、これ…もっと安くならへん?」

「こちらですか?…確認して来ますね、少々お待ちください」

若い男性客からポータブル音楽プレーヤーの価格交渉を受け、唯は上長に許可取りする体で売り場を離れレジへ向かう。

 調べたのは税抜きの仕入れ値、つまりは原価を下回らないギリギリのラインまでの値引きで客の要望に応えるための準備である。

 通常はこのデータをフロア長へ提示して指示を仰ぐのだが、同等の権限は与えられているので唯は自己判断で販売価格を決定した。
 

 客前へ戻って電卓を弾き、

「税込でこれくらい、いかがでしょうか?」

と最安値より少し上乗せして提示すれば、

「端数は切れへん?」

と返されたので手早くマイナスボタンを押す。

 そして百の位以下を切り捨てて最終価格を提示、これくらいは予想済みだった唯は少し困ったように眉尻を下げて「頑張った」感を演出した。

「ん、じゃあそれで決めますわ!よろしく」

「はい、お色はどうしますか?今、どれも在庫はあるんですけど」

バックヤードの在庫棚を朝の内に確認したので各色揃っていることは分かっていたし、手元の端末にも同じ結果が時間差で表れる。

「んー、お姉さんやったら、どの色にする?」

「あー、黒ですかね…カバーも着けますけど、やっぱり汚れが気になるんで…」

「そうかぁ…しやったら僕も黒にしようかな」

「はい、かしこまりました」

 音楽プレーヤーは年々小型化と高額化が進んでいる。

 今回の品も小さいのに大型のテレビと張れるくらいに良い値段がするので売り上げに大貢献であった。


 唯は客をカウンターへ掛けさせ、それなりの待遇で感謝を示す。

「はい、」

「お預かりします、」

先にポイントカードを受け取りレジへ通せば、顧客情報欄にはまたしても見慣れた名前が表示された。

「葉山…太獅たいし……またか…」

これもきっと葉山一族か?しかし軽々しく確認するわけにもいかず会計を先に済ませてしまおうとする。
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