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おまけ・12月
葉山と笠置家・前編
しおりを挟む遡ること4年余り、2016年のこと。
「すみません…葉山龍と申します。僕、ユイさんとお付き合いさせて頂いてるんですが、ケンカしてから連絡を返して下さらなくて…今、どちらにいらっしゃるかご存知でしょうか…?」
葉山は笠置家の玄関先で学生証を提示して菓子折を差し出し、行方知れずになったセフレの動向を尋ねた。
「は…ユイは彼氏おったんか…母さん、ユイの彼氏が来てんで、おぉ、上がり上がり…」
唯の兄…類は有名洋菓子店の手土産に釣られて、無用心にも初対面の葉山を家に上げてしまう。
・
「………そういう訳でして…たわいもない口喧嘩だったんですが…その後はメールも返ってきませんで…電話も拒否されて…」
ずかずかと家に上がった葉山は嘘八百を並べ立てて類へ窮状を訴え、涙ながらに語っては唯母の同情を引いた。
「せやの…あの子、彼氏がおるなんて言わへんから…知らへんかったわ…可愛い彼氏やんか…」
「いえ…僕が頼りないから…ご家族にも紹介してもらえなかったのかと…くすん」
「勤め先に聞いたら?」
「いえ…僕たち、お付き合いしてる事を内密にしていたので…バイトの僕が社員のユイさんの行き先を尋ねるというのは不自然でして…」
これは本当で、普通に働いていれば二人は接点など無いに等しい関係だったので、葉山は誰にも手掛かりを貰えなかったのだ。
「はぁ…龍ちゃん、元気出して。ユイはなぁ、今兵庫県よ、」
「ひょうご!」
ようやく出てきた唯の手掛かり、しかも自身の出身地とあって葉山は目を輝かせる。
「うん、西の方やね、皇路市。社宅アパートに入っててんけど…ほんまに少ない荷物で出て行ってんよ、こっちも寂しいくらいやったわぁ」
「お母様…お店の名前…分かりますか…?」
葉山は唯母の手をぎゅうと握って、娘によく似た目元を凝視した。
「おい、母さんに色目使いなや。ほら、店の住所や」
類は推し芸人のステッカーを貼ったタブレットでムラタのホームページから勤務先情報を調べて表示し、ニコニコの唯母と葉山の顔の間に差し込む。
「皇路市…本店…ですね、もろに地元だ…国道沿いか…遠いなぁ…新幹線か」
店名と住所を脳裏に焼き付けた葉山は、よく知ったその物理的な距離に悩ましげな声を漏らした。
彼はまだ大学生で、アルバイトはしているものの頻繁に通えるほどの財力は無かったのだ。
帰省にかこつけて親から交通費を貰うか、脛齧りの青年は考えを巡らせる。
「こっちから連絡してみよか?」
「いえ…僕とご実家が繋がっていると勘付かれると、お母様たちにも連絡が来なくなる可能性があります…」
「お前、何してん?恋人やろ?まさかストーカーか?」
類は今更だが犯罪の匂いを感じ取って青年を怪しがるので、葉山は
「お兄様、この通り………ほら、ツーショットで写真を撮るような仲なのでご安心ください」
と財布から写真…ブレブレの隠し撮りツーショット写真を母子に見せて信用の後押しをした。
「よし…ありがとうございました…バイト代を注ぎ込んで逢いに行きます!あ、僕もユイさんの元いた店舗で働いてますので、何かあればいらしてください」
青年はこの後も事あるごとに笠置家を訪問しては交流を深めていくのだが、唯はそんな事を知る由もない。
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