お嬢の番犬 ピンク

ピンク

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「ところで…あんた達さぁ、習い事の日に黒服で来るん、ええ加減に辞めてくれへんやろか？」

「「なんで？」」

少女からの本気のお願いに、成人男性２人の声が揃う。

「なんでって、あんた達、仕事中はツナギやんか。わざわざ着替えて来るヤクザごっこを辞めて、って言うてんの」

「まぁね、」

「ワシら任侠映画好きやからね」


　言い忘れたが彼ら２人の普段の仕事は極道…ではなく神石じんせき家の家業の土建屋である。

　メインは企業用のビル、たまに一般家屋やアパート、設計から施工、別会社で売買・仲介・メンテナンスも請け負っている。

　和久わくは設計、垣内かいちは現場で電気工事等を行なっている普通の勤め人だ。

　普段はバス通学の雅みやびに送迎の用事がある時だけこうして黒服に身を包み、社長の車に乗って意気揚々と学校までやって来るのだ。

「デカい車、運転したかってんもん」

　和久が口元だけ笑い、

「スーツの方が、雰囲気出るやろ？」

垣内は胸を張って後部座席へドヤ顔を見せた。

「…あんた達、いつか勘違いでも捕まんで…」

　もはやコスプレとか趣味の域、彼ら２人がここまでするのには創業時の習わしが大きく関わっている。


　今でこそ廃業しているが、神石家はかつてヤクザ稼業を生業なりわいとしていた。

　と言っても雅の祖父で現当主の貴治たかはる氏の一代数年だけ、戦後のゴタゴタしている時代に一時的に増加したヤクザの内のひとりだったというだけの話である。

　ある程度混乱が落ち着いた頃に所属団体が解散、貴治氏は数十人の舎弟を連れて地元へ戻り、土建業や不動産業を営み始めて現在に至る。

　もちろん今は真っ当な仕事しか受けていないし、反社会的な勢力とは繋がりなど皆無だ。

　それどころか地元の名士として商工会でも幅を利かせているので時間と言うのは恐ろしいものである。


　貴治氏に付いてきたのはもともと舎弟、全員住み込みにしたため文字通りファミリーとなり、元職の雰囲気のまま「兄貴」「親父」などと呼び合う団体になってしまったのだという。

　なので貴治氏はいまだに「親父」、垣内と和久は就職後にまんまとその雰囲気に呑まれ、たまにこうして裏稼業ごっこという悪趣味な遊びを楽しんでいるのだ。