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ピンク
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しおりを挟むこの街を見下ろす小高い丘の上には、地域最大級の規模を誇る女子校が建っている。
幼稚園から大学までのエスカレーター式、ただ私立といっても通っているのは地元の一般家庭の子女が殆どで、編入も可能なので割とオープンな校風だ。
「ばいばーい、」
「待って、雅ちゃん。帰りに商店街寄って行かへん?新しいクレープ屋さんができたらしいねん」
「あー、ごめん…今日、スイミングやの…また今度ね」
下校時刻、その少女は送迎用駐車場を柱の影からチラと窺ってササと前髪を整える。
そして駐車場には同じような車が沢山並んで停められているというのに、迷うこともなく自家用車へ向かって歩き出した。
それは車の傍に立つ男…もとい、車のボンネットに寄り掛かって立つ男の風貌が、少し他者より目立って見つけやすいためである。
「ふあ…あ!お嬢、おかえり」
「ただいま…垣内、しゃんと立ちぃな」
彼がお嬢と呼ぶこの少女、神石雅はこの学校の初等部、言い換えれば小学校の6年生である。
腰まである長い髪を三つ編みにして両肩に下げ、有名デザイナーが手掛けたというスリーピースの制服を纏い、頭から足先までいかにも「お嬢様!」という雰囲気を醸している。
くりくりとした二重の目とふくよかな唇、クスリと笑った時の目尻の下がり方は可愛らしく亡き母親に似ていた。
彼女は送迎用の駐車場に停めた大型セダンの後部座席に慣れた様子で乗り込み、学校指定の革の手提げ鞄をドサっと足元へ下ろす。
「閉めるで、ええな」
ドアマンとして車外に立っていた男は彼女が脚まで収まったのを目視と声掛けで確認し、静かにそのドアを閉めた。
さてこの男…垣内の風貌だが、齢30にして金髪のツンツンヘアー、サイドは深めに刈り上げたツーブロックという気合の入った髪型をしている。
身長は175センチと黒スーツがサマになっている…と思うのだが中肉中背よりやや細い華奢体型、そして猫背故に立ち姿が目立つ。
垣内はそのまま助手席へ乗り込み、運転席の男へアイコンタクトで出発の合図を送った。
「出すで」
運転担当の和久はスッキリした坊主頭で、身の丈190センチの大男である。
単独だと悪さなどしない、むしろ仕事ができる男なのだが、同い年の垣内が絡むとどうも「男子」ノリを出してくるので注意…と屋敷ではそう扱われていた。
彼ら黒服2人は雅の使用人、SPとまではいかないがこうした送迎を行う人員である。
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