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27(最終話)
しおりを挟む翌朝。
「おはよう」
玄関前、送迎用の車の横にスーツで立つ垣内の前に現れた雅は、あんなに長かった髪の毛をバッサリと切り落として、首の見えるショートボブになっていた。
「お、お嬢?どしてん…え?いつ…」
「昨日の夜。ミユキさんが上手だって言うから手伝ってもらってん…似合うやろ?」
頭を振れば黒々とした重みのある毛束が扇のように舞う、垣内は
「き、綺麗よ……当たり前やんか…」
と車のドアを開けて乗るように促す。
「おぉ、お嬢かわいいやんか、お人形さんみたいや」
運転席の和久も、印象が変わった彼女を純粋に褒めてにこやかに笑った。
「ふふ、ありがとう。なんかね、新しいこと始めたくなってしもて。ちょっと大人に…なったやろか?わく兄」
「うん、大人っぽいよ。なんや奥様に……よう似てるわ」
「せやろ?……はや兄、うち大きなったら、もっとお母様に似るやろか?」
「そら…似てくるやろね…」
軽やかでフワフワとした雰囲気はより亡き母に近くなった…助手席の垣内はため息をついて口元を押さえる。
「その時はうちに釣り合うええ男、しっかり見繕ってな…はや兄、」
少女は女の顔で、父によく似た切れ長の目で、母そっくりに目尻を下げて見せた。
「!……任して、うん……」
「シートベルトしたね?出すよー、お嬢、今日の予定やけどまず歯医者ね、その後商店街の洋品店で制服ね、新しいスカート買お、んで……、……、」
「……あ…」
かつて愛した女の法要を明日に控え、和久と雅のやりとりを聴きながら、垣内は実に十数年ぶりの湧き上がるその感覚に慌てる。
ふわりと舞った髪とあの笑顔、それは幼い頃の冴子の生き写しであった。
「(サエちゃん…)」
倫理上あってはならないこの熱い感情は彼女の母の面影によるもの、しかしながら脳裏に焼き付いた彼女のあの笑顔に衝動的な体の反応は治まらず。
男は張り詰めたスラックスを和久に悟られないよう屈んで、目元ごと赤い頬も隠した。
おわり
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