お嬢の番犬 ブルー

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
11 / 27

11

しおりを挟む

 その髪をなびかせて殺気を纏い…垣内かいちは防げなかった自分を悔いてガチガチと震えるほどに奥歯を噛みしめ、眉間には怒りで深いシワが寄った。

「ゴルぁ!何さらしとんねん!止まらんかワレぇ‼︎」

 垣内に気付いて自転車はスピードを上げる、しかしリミッターの外れた狂犬は俊足だった。

 前傾で走ってそのまま腕を伸ばし、男の首へ絡めて自転車ごと引き倒す。

 ガシャン、と鋼とアルミの塊が横たわる衝撃音がアーケード下に響き、続いて怒り狂う垣内の罵声がこだました。

「おうコラ、うちのに何してくれとんねん、火傷しとったらただじゃおかんぞ、来いオラぁ!お嬢んとこ行って手ぇ着いて謝らんかボケぇ‼︎」

 金属音と怒声、人が砂袋のように崩れ落ちる光景。

 そして垣内のあまりの剣幕にみやびおののき、ドーナツ屋のカウンター前でぶるっと震えていた。


「聞いてんのかコラ、」

 腕を掴んでも動かない男に痺れを切らして垣内が蹴り上げようとしたその時、

「おい!おいおい、やめぇ、コイツが何してん」

と遅れて来た和久わくが止めに入る。

「タバコ投げよってん、お嬢に当たってんぞ!おぅ、起きやコラ」

「ほぉ…お嬢に」

 それを聞いた和久は丸い目を薄くして舌打ちをして、怪力をもって倒れた男の首根っこを掴みドーナツ屋の方向へ引っ張って歩かせた。


「アンタええ度胸してんなぁ、わざとやったらうちの親父さん黙ってへんけど…ほら、歩け」

ドーナツ屋の前に佇む雅の傍、落ちた煙草を目掛けて和久は男を振り投げる。

「すまん、ひとりにして…焦げたか?肌は?当たってへんか?」

 小走りで戻った垣内は主人へのフォローに入るも、

「あだって、ない…でも…焦げちゃった…ふあ…」

化繊のスカートの尻の部分には繊維が溶けてできた小さな穴、その穴からは薄いピンクの下着が僅かに覗く。


「…歩けるか?お嬢」

 ポケットから財布を出して和久が雅へ近づく、彼女は下唇を噛んで

「大、丈夫…」

と青ざめた顔で嘘をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

処理中です...