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しおりを挟むこの街を見下ろす小高い丘の上には、地域最大級の女子校が建っている。
幼稚園から大学までのエスカレーター式、ただ私立といっても通っているのは地元の一般家庭の子女が殆どで、編入も可能なので割とオープンな校風だ。
しかして一部は本物の富豪のお嬢様だったり、悪い虫が付かぬよう厳重に箱に入れられた娘さんだったりする。
そんな学校の一室。
「んっ…あ、30分経った…ごめんなさい。もう帰らな…」
「待って、雅ちゃん、ここにええ?…ん…は…もうちょっと…あかん…?」
「すみません…お稽古の日なんです…また…今度、」
終業からしばらく経った15時20分、その少女は胸元のスナップボタンをパチンと留め直し、社会科教室の奥の資料室からひとり出て来た。
そして昇降口から送迎用駐車場を窺い、「はぁ」とため息を吐いてリボンタイを整え、黒塗りの大型のセダンへ向けて歩き出す。
車のボンネットに寄り掛かって立つ男は彼女を見つけるとその体をゆっくりと起こし、
「ふあ…あ!お嬢、おかえり」
と挨拶を投げた。
「ただいま…お待たせ」
彼がお嬢と呼ぶこの少女、神石雅はこの学校の初等部、言い換えれば小学校の6年生である。
腰まである長い髪を三つ編みにして両肩に下げ、有名デザイナーが手掛けたというスリーピースの制服を纏い、頭から足先までいかにも「お嬢様!」という雰囲気を醸している。
切れ長の二重の目とふくよかな唇、クスリと笑った時の目尻の下がり方は歳の割に色っぽく、彼女の亡き母親に似ていた。
彼女は後部座席に慣れた様子で乗り込み、学校指定の革の手提げ鞄をドサっと座面へ下ろす。
「ええか…閉めるで、ええな」
ドアマンとして車外に立っていた男は彼女が脚まで収まったのを目視と声掛けで確認し、静かにそのドアを閉めた。
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