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しおりを挟む「ほら」
カシャを名乗る彼女は、ポケットから出した首輪を俺に差し出した。
「それ…」
「あたしの首輪。見覚えあるでしょ?」
オレンジ色の街灯の下では鮮明には分からないが、赤で上下の縁に白い糸でステッチがしてあって大きめな鈴が付いている。
これはカシャに着けていたものと同じだ。
しかし首輪は親父が処分したはずだ。
よく遊んでいたおもちゃや用具などと一緒に寄付したと聞いている。
なら彼女はその寄付先からやって来たということか。
にしてもあの時間あのペットショップに現れてピンポイントで俺を狙うなんてことが可能なのか。
「どこかに寄付したって…」
「焼却処分だったのかな?首輪の魂もあたしと一緒に転生したり…したのかもね」
信じられない、出鱈目に決まっている。
動き出した車のライトが俺たちを赤に黄色に照らしては駆けて行く。
ストロボみたいに数秒ごとに明るくなる彼女の顔は仄かに笑んでいて、それが不気味なんだけれど優しくも見えて…夢の中みたいな錯覚を起こした。
酒に酔った時に見る夢のような、子供の頃に読んだ外国の絵本の挿し絵のような。
物騒なのか穏やかなのか分からず脳が混乱する。
試したことは無いがクスリがキマってるってこういうのなんだろうか。
すぐ横を走る車の音も耳に入らなくなった。
「カシャ…なのか…?」
「だから言ってるじゃん」
「……」
そこからの数分はよく憶えていない。
いい大人がアスファルトに膝をついてはらはら涙を流したことなんて…都合良く忘れたことにしたい。
彼女はオロオロしていたが最後にはよしよしと慰めてくれて、俺が泣き止めば「戻ろっか」とゆっくりと会社の駐車場まで連れ添ってくれた。
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