猫だって……恋、するよ。

茜琉ぴーたん

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17(最終話)

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 前後に連なり歩く絨毯じゅうたんの廊下、彼女はカシャを火葬に出す時のお袋みたいに静かにとぼとぼ俺の後をついて来る。

 俺を翻弄した駆け足とはえらい違いだ。

 ホテルの外に出てもそのまま、交差点を渡りペットショップの前に着くまで彼女は押し黙っていた。


「…じゃあな、偽カシャ」

「……あの、今日はごめんなさい。咄嗟にとは言え、カシャちゃんをダシにして、その…不謹慎なことをしました…もうしません」

「当たり前だ」

「もう……あ、あの、お元気で」


 彼女はもう俺に会う気は無いんだな、そりゃただの告白をこれだけの騒動にしたんだから当然か。

 しつこくしても家業の評判に響くし親にも迷惑がかかるだろう。

 その判断は間違ってない。


 しかし彼女は一方的過ぎる。

 俺の意見を聞こうとしないんだからそこはワガママなカシャによく似ている。

 傷心を慰めようとしてくれたその心意気だけは買う。

 出逢いがショッキングだっただけでここから仕切り直して発展する何かがあるかもしれない。

 もっとも、彼女は今日よりもっと昔から俺を見つけていてくれたのだし。


 俺は怒ってはいない。

 ただ月日を重ねて薄れ行くカシャの記憶をもう一度濃くさせてくれた彼女の存在を…俺は簡単に忘れることは出来そうにない。



 店の駐車場へ曲がって行こうとする小さな背中に、

「おい、偽カシャ!お前、名前は⁉︎」

と投げかけた。


 彼女は振り返り口元をむずむず震わせて、

「~っ、果耶カヤ来島くるしま、果耶‼︎」

と…うちの猫に語感のよく似た名前を返した。


「カヤ、か。また…会う機会があったら話そうぜ」

「うん…うん‼︎」



 元気を取り戻した彼女のポケットの中で、聞き覚えのある音がきゃらきゃらと鳴る。

 コイツってやっぱカシャと似てんな、どこまでも俺を翻弄するんだから敵わないな。


「玲二くんっ‼︎」


 引き返し全身で飛び込んで来た彼女を受け止め盛大に尻餅をついて、俺はその温かさと重みをそっと抱き返した。



おわり
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