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しおりを挟む「玲二くん?」
「…お前、なんで俺にだけ懐かなかったんだろうな。親父が一番でお袋が二番手なのはまぁ分かる。でもたまに顔出す程度の兄貴にもそこそこ懐いてただろ」
「……逆にさ、ほら……気を引きたかった…んだよね」
彼女はそう言って、交差点の手前の点字ブロック上に両足を載せる。
やっと最初の交差点まで返って来た、ここを渡ってすぐがペットショップ、さらにその隣が俺の職場だ。
「気を引きたかった?」
「うん……好きだったから」
「猫なのに?」
「猫だって……恋、するよ」
大きな瞳に赤信号が反射する。
それが青に変わっても彼女は進もうとしない。
それどころか震える手で俺のワイシャツの腰を摘まんで、「こっち」と進路と反対側の東の横断歩道へ体を向けようとする。
「なに、どした」
「こっち…まだ帰らないで……あそこ、行こ?」
「……お前、あれが何か分かってんの?」
「分かんない。キラキラしてキレイだから…行ってみたい」
彼女が指差した先にはチカチカ光る電光掲示板。
そこに映し出されるのは『休憩2h・2980~』というリーズナブルな料金表だ。
駅からは遠くて車利用がメインのラブホテル…昼間は周囲のビルに馴染んでいるが夜ともなればさすが本領発揮というところか。
ギラギラとイルミネーションをこれでもかと光らせて大人を呼び込んでいる。
「あれは大人のホテルだ」
「あたしだって大人だよ」
「14歳だろうが」
「猫の14歳は玲二くんより年上だよ!」
それはそうだろうがそういうことじゃない。
死んだ恋人の転生なら彼女を抱くのだって不思議はないかもしれないが、俺はカシャを性対象にしていた変態ではないのだ。
もし、百歩譲って性対象にしていたところで転生後の彼女を抱くのも違うだろう。
出逢って1時間も経ってないのにセックスなんて端ない真似できるか。
学生の頃でもそんなに盛ったことは無い。
「やめろ馬鹿」
「玲二くん!お願い、それで…諦めるから、」
「あ、おい!」
しおらしく見えた彼女は俺のスラックスのポケットに手を突っ込んで、財布をぶん取った。
そして青信号になった横断歩道を駆けて逃げる…また追いかけっこだ。
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