猫だって……恋、するよ。

茜琉ぴーたん

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「…お前、何で逃げた?」

「追いかけっこ、いつもしてたから」

「ふん……足が速いな」

「お父さんが作ってくれたキャットウォークで鍛えられたのね」

 家の中だけで飼うと決めたからせめてこれくらいはと、親父は張り切って壁にいくつも棚を据え付けた。

 カシャはそこを歩いたり飛び降りたりしては家中で悠々と運動していたから、よく動きよく食べて健康体だったみたいだ。


 彼女は歩きながら、思い出をつらつらと語ってくれた。

 好きなオヤツ、好きなオモチャ、確かに彼女の弁はカシャのそれと一致していた。


「……、……、ごはんはさ、赤い袋のが美味しかったな」

「1回、青い低カロリーのやつにしたら食わなかったよな」

「そうそう。たまに缶の良いやつ、玲二くんが買ってくれてた…チューブのも、あれも美味しかった」

「…そっか」


 蒸し暑い梅雨の合間、とろとろ歩いていると汗がじわっと吹き出して来る。

 さっきまで走っていたから尚更だ、ネクタイを緩めてパタパタ空気を通した。


「暑いね」

「うん……なぁ、猫ってさ、毛が生えてるけど夏とか暑くねぇの?」

「涼しくはないよ、でも服着てないし…あ」

何が失言だったのか、彼女はもじもじと指を擦り合わせて顔ごと俺から目を逸らす。

「なに」

「…いや…猫だった時って裸だったんだって思ったら…恥ずかしくなっちゃった」

「……うん…いや、変な意味で聞いた訳じゃねぇよ」


 暗がりだから顔色までは分からない。

 けれど彼女の頬は今きっと紅くなっているのだろう。

 猫に『恥ずかしい』なんて概念があるのかは分からないが、憑依すると依代よりしろの価値観に影響されるのかもしれない。

「う、うん…まぁ、だから涼しい所で寝たりするんだけどね」

「ふーん……そういや、お前…エアコンつけてる時だけ俺の部屋に立ち寄ってたな」

「えへへ…自由が好きだから」

「……結局、1回も…俺とは寝てくれなかったな」

「そうだね」

「……」


 カシャは家族の中では俺を下の身分として扱っていたから、基本的に塩対応だった。

 若い頃は悔しくて好かれようと躍起になったもんだが、それが逆にうとまれる要因になったのかもしれない。

 でも腹が減った時に部屋のドアをガリガリしたり、寝ている俺の腹にジャンプしたりトコトコ来てヒゲを擦り付けては僅かに愛想をくれていた。

 そんなたまに見せるデレなところが可愛かったんだ。

 14年の歳月で俺はカシャを当たり前に愛していた。
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