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しおりを挟むカシャの死後2ヶ月ほど経った頃。
会社の隣にあるペットショップへとふらり立ち寄ってみた。
代わりを探す訳じゃない。
月末に餌を買う習慣になっていたから癖で入ってしまっただけだ。
自動ドアが開いて「もう用事は無いんだ」と思ったものの、すぐ引き返しても不審かと思い一応ぐるりと周回する。
小鳥、げっ歯類、熱帯魚。
限られた範囲で飼える動物も可愛いなと感じる。
でも俺は家の中を我が物顔で闊歩するカシャの自由さが好きだったんだ。
物陰に隠れて後からついて来るなんて悪戯もできる賢さも好きだった。
「(ハムスターも可愛いな…でも、飼い主の事を認識してくれるのかな…)」
ふわり香るのは床材と毛と糞尿の匂い、まるで小さな牧場を持って来たみたいだ。
カシャは母がブラッシングしてくれていたからいつも綺麗だった。
猫砂も上手に蹴っていたから匂いで困ったことも無かった。
「(何に関してもカシャと比べちまうな…)」
「お兄さん、元気無いね」
犬・猫コーナーに入ろうとした時、後ろから声を掛けられて俺は固まってしまう。
「……」
まさかこんな所でナンパは無いだろう…口ぶりからすると店のスタッフでもあるまい。
ましてや俺は仕事帰りのくたびれたリーマンだ。
呑み屋なら一杯付き合っても良いがこれからくり出す元気も無い。
「……?」
ゆっくり振り返ると、そこには若い女性が立っていた。
「あの」
「元気無いね。ペットに癒されに来たの?」
茶髪のボブヘアーはふわふわ軽やかで、くりっとした目が印象的な娘だ。
こういうのを『猫目』と言うんだろう、二重がくっきりとして目尻が上がっていて…死んだカシャを思い起こす。
そしてその目で俺を見上げるもんだから、タメ口を注意も出来ずぽうっと見入ってしまった。
「い、いや、そういう訳では」
「何か、悲しい事でもあったんじゃないの?」
まるで見透かしたことを言う。
当てずっぽうにしてはズバリなので心の中に一本筋が開けたような不思議な気持ちになった。
占いで近況を言い当てられたような、超能力で思念を読み取られたような。
心を開くとはこういうことなんだろうか、傷心の俺は簡単に彼女を味方だと認定してしまう。
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