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しおりを挟む「……飼っていた猫が…死んで…」
もう2ヶ月も経っているんだ。
こんなに引きずるのはおかしいと自分でも思う。
でも猫だって共に暮らした家族なんだ、人に例えるなら生意気な妹くらいの感覚だった。
きっとカシャを擬人化したらこの女性みたいな娘だったんじゃないのか。
よく似た瞳に妙な親しみを感じる。
「そうなんだ…大切にしてたんだね」
「いや、そんなことは…大して懐いてもくれなかったし」
「そうかな、可愛がってたんじゃないの?」
「…まぁ…人並みに…」
親が買った猫だからとか呼んでも来てくれなかったとか、俺が主体となって飼っていなかったという言い訳はたくさんある。
そりゃ憎い訳じゃないから世話はしたが、猫から愛が返ってくるもんでもないから虚しい気持ちはあった。
「……」
時刻は20時半。
人がまばらな店内もなんとなく閉店ムードになってくる。
初対面の小娘と思い出話が盛り上がるはずもないだろう。
軽く会釈をして背中を向けたその時…
「玲二くん」
と何故か彼女は俺の名を呼んだ。
「………⁉︎」
「玲二くん」
「なに、なんで」
愕然と疑問符ばかり浮かべる俺に彼女は笑いかけて、店内の掛け時計を確認して出口へと走り出す。
きゃらきゃらと耳に覚えのある鈴の音が鳴った。
つい最近まで聞いていた馴染みのある音色だ。
「ちょっ…待っ…」
店の出口の先はここらで一番交通量のある国道の交差点だ。
街灯に照らされた彼女は俺を窺いつつ青信号の横断歩道を渡って行く。
「待てっ…」
駐車場に車があるから遠くまで行きたくはないんだ。
でも渡った先で彼女が頭をくりくり振って俺を待っている。
けれど俺が近付けばまた走る、なのに信号に引っ掛かって足止めを食えば立ち止まって待つ。
まるでカシャとの追いかけっこだ、アイツも若い時はこんな風に俺を翻弄していた。
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