猫だって……恋、するよ。

茜琉ぴーたん

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 しかし彼女は、

「あたしが、カシャの生まれ変わりって言ったら…信じる?」

と話してもないうちの猫の名前まで言い当てる。

「なん…どうして名前を⁉︎」

「信じる?」

「……」


 そうか例えばこの娘が動物病院勤務とかでカシャを見たことがあったとか。

 しかし俺が連れて行ったことは無いから俺の名を知っているはずはない。

 俺は家の中でしかカシャを可愛がっていなかったんだ。

 対外的に俺とカシャを繋げるものは無かったはずだ。

 何か、何かトリックがあるはずだ。

 あまり得意ではないが、理屈で詰めてやろうと頭を回転させる。


「いや、うちの猫は14歳だった。君は…失礼だが成人してるだろ?生まれ変わったって年齢が合わない」

「前世の、例えば本人の意思で一番思い入れのある年齢の姿で現れることができる…としたら?カシャが人間の女の子として生まれ変わりたいって願って神様が叶えてくれたとしたら?」


 なんてこったまさかカシャが?って中学生じゃあるまいしそんな魔法は信じない。

「ファンタジーじゃあるまいし」

「どうだろ、現にあたし、数ヶ月前までどうやって生きてきたか記憶が曖昧なんだよね。まるでこの姿でポンとこの世に生まれ落ちたみたいな…変な感じなの」

「いや、家はどうしてんだよ…家族とかいるだろ」

「一応いるよ。この子の身体にあたしの魂が入っちゃった、乗っ取っちゃった形なのかな?生活は体に染み込んでるから家族も怪しまないよ」

「……馬鹿な」


 ごく自然な口ぶりにこちらの劣勢を感じてしまう。

 科学的にと主張したいところだが生憎俺は専門家ではない。

 霊能力や呪いの類はその存在を確かに立証できないもんだからそれが関わる犯罪も法で裁くのが難しいと聞く。

 例えば彼女を多くの人の前に引き出して「この娘には猫の魂が入っている!」と俺が言ったとして、賛同派と否定派が争うだけできっと決着はつかない。


「信じるかどうかは玲二くん次第だよ」

「…もしそうだったとして…お前がカシャの生まれ変わりだとして…何が目的だ」

「あまりに落ち込んでるから…慰めてあげたくて」

「……」

「じゃあこれならどうかな」


 高架下の信号が赤になって車が一時的に減る、そこに再びきゃらきゃらと鈴の音が響く。

 この音はやはりカシャの首輪に付いていた鈴だ、間違いない。
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