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しおりを挟む距離にして200メートルほど止まったり走ったりを繰り返して、水路を跨ぐ高架の坂を上がって行く。
「ハァ……っあ…」
歩道とはいえ勾配のある坂は歩行者向きではない。
取り逃したら帰りが余計に辛いなぁなんて思いつつ坂をダッシュする。
「ま、て、」
信号も無いし逃げ道も無い、高架の天辺に着こうという頃にやっと彼女の腕を捕まえた。
「ッは……話しかけといて、何で逃げんだよ…おい、」
「ははっ…捕まっちゃった」
「なぁ、お前、さっき俺の名前…」
上がる息とばくばくの心臓が尋問の邪魔をする。
掴んだ腕は振り解かれて、しかし彼女はもう逃げなかった。
「玲二くん、」
「…あんだよ、誰だ、お前…ゼェ…」
俺は接客対応込みの仕事をしているから、過去の顧客という線も無くはない。
しかし下の名前を教えることは無いし、ここまで親しくなるほど会話をすることも無い。
第一、女性とは縁遠い生活だから彼女みたいな可愛い系統の娘なら印象に残るはずだが全く記憶に無い。
「……分かんない?」
「知るか…何だよ…」
同級生ではない、彼女は若過ぎる。
近所にも親戚にも思い当たる者は居ない。
「そっかぁ…」
彼女はちょっと残念そうに首を傾げてまつげを伏せて、しかしすぐさま俺に詰め寄り大きな瞳で俺を見つめ…
「転生って信じる?」
と真顔で尋ねた。
「てんせい、」
「小説とかアニメとかあるでしょ、異世界とか時空を超えて生まれ変わるやつ」
「はぁ」
馬鹿馬鹿しい、信じられる訳ないだろう。
息を落ち着けて唾を飲み込んでもう一度「はぁ」と呟く。
そのくらいは知ってるさ、近年におけるライトノベルで最も流行ったファンタジー作品のジャンルのひとつだ。
現世から何らかの形で異世界へ飛んでしまって第二の人生を始めるみたいなのが多いことも知っている。
ライトノベルに限らず、死んだ人の魂が生者の身体に宿って…みたいな一般文学にも該当作品はあるが、俺はオカルトは信じない質なので不得意な分野だ。
ノンフィクションだとか2時間サスペンスドラマとか、現実世界に則した作品しか視聴しないしファンタジーの見方が分からない。
なので俺からすればこの娘はネジが外れたというか浮世離れしているというか…俺とは見えている世界が違うのかなと足が勝手に一歩下がった。
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