猫だって……恋、するよ。

茜琉ぴーたん

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 14年飼っていた愛猫が死んだ。

 俺が15歳の高校に上がった年、子育てがひと段落したと親が連れて帰ったペルシャの雌だ。

 縞模様のブラウンタビー、濃い所はチョコレート色で薄い所はウォルナット色。

 ふわふわした毛並みが手の平に気持ち良くて、愛らしい猫だった。

 名前は『カシャ』、ペルシャ語の「美しい」という単語の読みから取って親父が付けた。


 猫なりに気ままで追い掛ければ首輪の鈴をきゃらきゃら鳴らして逃げて、でもこちらが何か作業しようとすれば気を引きに来る憎めない奴。

 俺のことは下に見ているのか、鉛筆を咥えて持ち去ったり隠したり、こちらが叱ろうもんなら肩をいからせて威嚇しやがる。

 でも機嫌が良ければ膝の上でくぅと伸びをして、そのしなやかに反った背中を撫でさせてくれた。

 10歳を超えるとめっきり動きは鈍くなったけど愛想は相変わらずで、俺は職場の近くのペットショップでオヤツを買って帰り貢いだりしたもんだ。

 
 そのカシャが天寿を全うして、そこそこに可愛がっていたつもりの俺にペットロスが訪れた。

 邪険にされたって相手にされれば嬉しくて、オヤツを吐かれても尻尾で叩かれても俺はカシャを大切に思っていたみたいだ。

 最期を看取った両親は意外やあっさりしていて、目に見えて落ち込んだりはしていない。

 けれど自分達の老後が重なったのか、次の猫を飼おうという話にはならないらしい。

 人間でいうところの四十九日を済ませて先祖代々の仏壇に最後の猫用ミルクを供えて、懐かしみながらもオモチャなどは箱に収めて他所に寄付してしまった。


 俺はといえば時折ずんと気分が落ちて、一緒に過ごした思い出が頭を巡っては切なくて堪らなくなる。

 分かり合えている感じは無かったしあくまで『同じ家に住む人間』くらいの扱いだった。

 それでも14年という歳月でカシャは俺の生活にしっかり食い込んできていたし家族に違いなかった。


 テレビの猫特集も観る気にならないし、代わりのペットを買うなんて気も起こらない。

 こんな時は時間が忘れさせてくれるのを待つしかないのだろう。
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