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おまけ・浩史の懐古
後編
しおりを挟むその後、俺は二人で暮らすためのアパートを近くで探し、美晴には「来週引っ越すから、荷物まとめるわ」とだけ告げた。
「え、浩史くん出て行っちゃうの⁉︎やだ、」
「30過ぎたし、いつまでも実家暮らしっていうのもな…美晴も来るか?」
「行く、一緒に暮らしたい!」
「ん、なら住人として美晴の名前も追加しとくわ」
言いくるめれば、いつの間にか夫婦になってたなんてことも造作なかったと思う。
しかしケジメというか男の大仕事とでもいうのか、俺の責任においてこれをやり遂げねば偉そうに出来ないと思った。
「……」
「…浩史くん?」
「…美晴、今夜…ホテルデートしないか」
「えっ♡良いよ、浩史くんからハッキリお誘いくれるなんて嬉しー」
「伝えたいことがあってね」
照れを超えるには勢いと欲だ。
俺はこの夜、美晴を抱きながら求婚した。
「美晴ッ…俺の、嫁さんに、なってくれッ」
「な、りゅッ…あ、あ♡嬉し、あ、あ、」
「家事も出来る範囲で良い、ぅぁ…あったかい家庭、作って、幸せに、なろーぜッ」
「なるぅ♡こーしくんのお嫁さんッ…いっぱい、一緒に、いよぉねッ…あ、もぉ、らめ、アっ♡」
弾ける汗の粒、響くは歓喜の声。
最高に乱れた美晴は女神のように美しくて、俺を「もっともっと」と求める姿は可愛らしくて愛おしくて堪らなかった。
これで無事に婚約、関門を乗り越えた俺は再びサラッと塩対応に戻った。
ちなみにプロポーズ翌日、美晴の喉は枯れており…親父やお袋に「どうした」と尋ねられて気まずい空気が流れたりしたのも良い思い出だ。
・
「浩史くんさぁ、エッチの時は情熱的なのに、普段はデレデレしないよね」
美晴はそう言って新居の床を磨く。
俺は
「…そうか?男はそんなもんだろ…そっちの方が良いか?」
と内心ヒヤヒヤして荷解き作業の手を止めた。
美晴が望むならデレないこともないが、情事中に漏らすくらいが丁度良いのではないかと思う。
甲斐甲斐しく働く美晴の尻を眺めること数秒、彼女も手を止めて俺に振り返った。
「ううん、むしろ…いざという時に感情が爆発してる感じがして、えっちで良いと思う。隠してる私への想いを解放してる感じ、えへ、そうだったら良いな、なんてね」
「……うん」
・
妙に鋭いところもあったんだよな、それが望みならその通りいてやろうかと思った。
実際、この数年後に俺は感情を抑えてさらなる塩対応に努める覚悟をする。
あの問答の時に美晴が「普段もデレて」と望んでいたら、今とは異なる未来が待っていたのかもしれない。
鞭を使わず飴ばかりで、美晴が成長しなかったかもしれない。
愛欲に溺れて、生活が立ち行かなくなってたりして。
二人で住むには充分の広さのアパートには、あまり期間を置かずに新たな住人が増えた。
そしてもうひとり増えて、新たな家に引っ越して。
また二人きりになる日がいずれは来るんだろうな、その頃まで元気に働けていれば良いな。
「浩史くーん、ごはん出来たよー」
「ん、今行く」
アルバムをぱたんと閉じて、俺は俺の可愛い妻の元へと向かうのだった。
おわり
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