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2016…評判の饅頭
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しおりを挟むそれからまた数日。
上手くいっていたかのように見えた美晴だったがその平穏は分かりやすく崩れた。
時間を掛けることで保っていた家事が滞り出したのだ。
掃除洗濯はまだしも料理の質がぐんと落ち、品数も減りスーパーの惣菜が食卓に並ぶようになった。
それは悪いこともないのだが、そこにパート代を注ぎ込んでいては元も子もないというか意味が無いないように思える。
精神を擦り減らして働いて惣菜を買うんなら、家で伸び伸びと時間を掛けて手料理を作った方が心も健康だと思うのだ。
こちらは敢えて指摘もせず、しかし共働きだからと手を貸すのだが美晴は自分を責めているのか酷く申し訳なさそうに謝ってくる。
これは決壊が近いのだな、ついに晩飯がカップうどんになった夜、ダイニングにて話し合いを設けた。
「美晴、自分から言い出すのを待つつもりだったけど、仕事が辛いんじゃないのか」
「……」
「店の方に立ってるんだろ、疲れてるんじゃないのか」
「な、なんで知ってるの?言ってないのに」
「制服が干してあるから分かるわ」
「あ」
やれやれうっかりさんな嫁だ。
あの可愛らしい制服を自宅で洗っておいてバレないとでも思っていたのか。
思っていたんだろうが、俺が取り込んで畳んだりしたこともあるんだから察していることを察していると思っていた。
「この2週間くらいか?売り子してるんだろ、美晴が言わないから黙ってたけど…疲れが出てるんじゃないのか」
「…それは…」
「ミスとかしてない?レジの金が合わなかったり責められたりは?」
「そ、損益とかは無いの。商品名も値段も覚えたしレジも自動でね、現金のみだしお釣りも勝手に出て来るから…何を何個、って言われたら用意は出来るの。でもね、やっぱり…急かされたりしたらドジしちゃうの。どんな味かって聞かれたり、こんな味のものを適当に、とかせかせか言われた時も頭が真っ白になっちゃった」
「そう」
きっと原材料を聞かれたらスッと答えられるはずなんだ、けれど抽象的な表現を人に説明してかつ端的にとなると美晴には難しい。
『まろやかな』や『甘さ控えめな』も曖昧で美晴の脳内ライブラリが火を吹いてしまう。
かつてはキャバクラで聞き上手として名を馳せた彼女だが、物を売るのはまだまだハードルが高かったようだ。
「あの、ね、店長がやっぱり入り浸って私を店の方にスカウトして、ある日更衣室で着替えようとしたらロッカーに売り子の制服とマニュアルが入ってたの。それで作業用の白衣は返してって言われて…そこから所属が売り場になっちゃった」
「ほう」
「その日いきなり店に立たされて…商品のこと聞かれても分かんないし、どれが何円かも覚えてないし…レジも打ち方分かんないし…わたわたしても助けてもらえなくて」
それが俺がこっそり盗み見たあの日の事なんだろう、ならばあの時既に美晴はひと傷負って帰宅していたのか。
そこそこ長い付き合いになるがポーカーフェイスというか隠すのが上手くなったものだ。
若い時ならその初日から家事がストップしていたことだろう。
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