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2016…評判の饅頭
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しおりを挟むそれからしばらくは淡々と日々が過ぎていき、美晴に仕事のことを尋ねても「頑張ってるよ」としか言わなくなった。
それだけなんてことはないだろうと根気強く聞き出せば、「こんな饅頭を作った」とか「真空パックってこうするんだよ」とか製造方面のことをつらつらと話してくれる。
はて店舗の方に行かされるんではないのかと思っていたが店長のジョークだったのか。
もしかすると言葉を額面通り受け取ってしまった美晴の勘違いだったのかもしれない。
「(働けてるんなら問題無いか…)」
家事も出来ているし子供の送迎も支度も落ちは無し、美晴の成長を感じていたある日のこと。
急遽店長のお使いで仕事中に外出することになり、自宅付近を通りがかったので覗いてみることにした。
きっと美晴が仕事から帰って休憩している頃だ。
こども園のお迎え時間には早いから在宅していると踏んだ。
泥棒みたいな気分で忍んで玄関を開ける。
予想通り美晴の仕事用の靴が脱いであったので居ることは間違いない。
俺を見たら驚くだろうな、すぐ店に帰らねばならないがキスくらいしてエネルギーチャージをしたいものだ。
「(台所かな……ん?)」
見慣れた部屋には見慣れない服装の嫁、丸襟ブラウスにスカートと三角巾にエプロンも装備していた。
あれは売り子の制服だ。
そうか店舗側に異動になったのかとひとり噛み締める。
「(可愛い)」
やはり似合っている…細い首を飾る丸襟、三角巾で抑えられているが艶やかな前髪とちょろんと出た尻尾。
滅多に見られない白い膝、まるでコスプレな美晴は垂涎ものに可愛らしかった。
「(隠し撮りしよ…よし、おかずゲット……しかし何してんだ…?)」
何か紙の資料をめくってはぶつぶつ喋って、おそらく美晴は店頭での販売シミュレーションをしているらしい。
美晴はあれで記憶力は良いから商品名と価格を覚えるのは訳ないだろう。
しかしスキャンして個数を数えて詰めて金銭を授受して…と複合的に事が重なると完遂は怪しくなる。
マルチタスクが苦手なのだ。
だから料理も失敗が多いしレトルトにどんどん頼って良いとお達しを出している。
なるほどこうしてひとり練習して本番に臨むんだな、俺は声を掛けずにそっと引き返して会社に戻った。
美晴は自分の発言に責任を持って頑張ろうと努力をしているんだ、俺は何も見てないことにして過ごそう。
そして成功あるいは失敗の報告があれば道標を出してやることにしよう。
偉そうだが監督みたいな気持ちで心に秘めることにした。
その夜遅く帰宅して「今日はどんな1日だった」と聞けば、美晴は
「えっと、お饅頭作って……帰ってからご飯の作り置きして、お迎え行って、晩ごはん作ったよ」
と意図的に部分的に隠して報告してくれた。
ならばやはり俺もその策に乗ってやろう。
「辛かったら言えよ」
と頭を撫でてやれば美晴は猫のように俺の膝に乗り、すりすりと柔らかい頬を俺のそれに擦り付けて小さく「うん」と呟いた。
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