17 / 94
2016…評判の饅頭
17
しおりを挟む美晴が働き始めてひと月。
長男の入学やら何やらで忙しいのを差し引いても明らかに家事の手落ちが多くなった。
ゴミを捨て忘れる、子供の水筒を準備し忘れる。
俺も協力はしているが炊飯器がセットされていないのは気付いた時にはもう遅かった。
という訳で今朝はご飯無し、幸い買い過ぎた食パンを以前冷凍していたのでそれを子供に用意して学校とこども園に送り出す。
夫婦揃って今日は休みだし喫茶店でモーニングでも食べに出よう、そう誘えば美晴は嬉しいのと申し訳ないのとで複雑な面持ちだった。
「…何かあった?」
「……」
「隠さなくても良い。仕事のことだろ」
「あ、うん…」
近所の喫茶店でモーニングセットを頼んで温かいおしぼりで顔を拭く。
敢えて眼鏡を外したまま目を合わせずにいれば美晴はもじもじと話を始める。
「職場のね、リーダーが何人かいるんだけど、製造の工場長、店舗の店長、あとパート長。工場長と店長は男の人ね、パート長は50代くらいの女の人」
「うん」
「工場長と店長がね、昔から仲が悪いらしいの。それで私が面接に行った時、店長は売り子の方で採りたかったらしいのね、でも私が製造の方で!って主張したのが気に入らなかったみたい」
まぁ美晴の美貌なら接客の方が自然だろう。
でも本人が希望するんだからそれは聞き入れられたらしい。
「ふむ」
「それでね、工場の方に店長がちょくちょく来てね…製造じゃなくて、売り場に来なよって口説くの」
「けしからんね」
「あの、変な感じじゃないんだよ、男女の感じの口説くじゃないの、」
もしそうならすぐにでも辞めさせて恫喝もんだけどね、美晴は俺の眉ひとつ動くごとにあわあわと身の潔白を主張する。
そいつの気持ちは分からんでもない。
何度も言うが美晴は綺麗で可愛いから店頭に立たなきゃもったいない気持ちは良く分かるんだ。
俺は美晴が俺以外の男に靡くとも思ってないし、俺以外では美晴を相手できないだろうとタカを括っているからその点は心配無し。
しかし慌てふためく顔を見たいので早めに眼鏡を掛け直した。
「分かってるよ…そんで?」
「うん…店長が『こっちはババアばっかりでつまらないだろ、表に立って客引きしたらどうだ』って言って…そしたら周りのパートさんたちもなんか…恐い感じに…なってきてて」
「そりゃババア扱いされた人らは面白くないわな」
「うん…私は製造が良いって断ってるんだけど、工場長も仲良くない店長が入り浸るからだんだんイライラしてきて、『津久井さん向こう行ったら?工場が静かになるし』って…追い出されそうで…」
板挟みというか美晴が挟まれなければ平和になるのだ。
周りからすれば美晴が売り子に転身することで丸く収まるならそうして欲しいと思っていることだろう。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる