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2016…評判の饅頭
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しおりを挟む「……分かった、でもさ、接客より製造とか単純作業とかの方が向いてると思うけどね」
「うん…あの、通りのね、お菓子屋さんあるでしょう?マルカメ堂本舗、あそこで求人の貼り紙見て…良いなって思ったの」
「あー、饅頭の」
そこは街に古くからある和菓子屋の本店、家からは距離にして2キロ無いくらいか。
自転車でも通えるし手頃ではある。
表に販売ブースがありその奥が工場になっているらしい。
支店に置く分もそこで製造しているからなかなかの規模みたいだ。
「うん、アルバイトからでも…やってみちゃダメかな?」
「良いけど、接客できんの?金勘定とかあるんだろ?」
「貼り紙には販売と製造と書かれてたんだけど、販売の方が時給が良かったからそっちにしようかと思ってて…」
「んー…時間帯とかに問題が無いなら、製造の方が良いと思うけどねぇ」
選択肢があって自分の意思で決めたのなら無碍に曲げさせたくはないのだが、精神的な負担を掛けたくないので出来れば楽なようにしてやりたい。
もちろん俺が美晴の限界を勝手に決めるなんてのは烏滸がましいことだし成長の妨げになってしまう。
けれど同じ接客業をしている俺だからこその提言なのだ。
「じゃあ、製造にする」
「…美晴の能力を侮ってる訳じゃない。でも急かされたり怒鳴られたりしたら嫌になるだろ…いや、菓子屋にそんな客層は来ねぇか」
つい自分の職場を基準に語ってしまう。
家電量販店はブラックとは言わないが、安売り店にはそれなりな客が集うものだから理不尽に怒られることもしばしばだ。
手土産用にと「急いで包んでくれ」とか「適当に千円分見繕ってくれ」なんてのは美晴には無理難題だろう。
食券タイプの飲食店の方がまだマシだと思う。
「分かんないけど、無理そうなら辞める。でも…自分で決めたら頑張りたいの」
「ん…分かった。こども園のお迎えあるから最初は短時間な、慣れたら増やしてもらいな」
「うん、言ってみる」
「子供たちに何か…例えば急病とか、あっても俺は仕事抜けらんねぇかもしれないから、美晴が優先的に呼ばれると思うけど…ごめんな」
「良いよ、これまで養ってもらったんだもん、助け合いだよぅ」
まだ俺はお前を扶養から外す気は無いんだけどね、それは言わないが月毎の勤務時間が増えてきたらそれとなく伝えておこう。
「(張り切ってんなぁ…)」
マルカメ堂の売り子の制服は丸襟ブラウスに濃い茶色の膝丈スカートとエプロン、頭には同素材の三角巾を巻くスタイルだ。
髪はひとつにまとめて清潔に、美晴は今黒いセミロングだから三角の角から覗けば尻尾みたいで軽やかな印象になるだろうか。
「(見てみたい、けどねぇ…ダメよ)」
こんな可愛い嫁を店頭に立たせて不用意に客が集まったらどうするんだ。
すぐに看板娘になっちまって地元の情報誌の取材が来てチヤホヤされて変な虫が湧いたらどうすんだ…過大評価だと笑われようとも、これが俺の本音だ。
別に俺は普段の服装にケチを付けたり規制したりはしていない。
昔は胸元が大きく開いたワンピースなんかを着ていたが、それは当時の彼氏の好みだったそうだし本人の意志で選んだ訳ではなかったらしい。
美晴は基本襟付きだったり首周りが隠れた服を好むのだ。
胸はそれなりだが肩とデコルテ辺りが痩せ過ぎていてみっともないから隠したいのだと言う。
まるで少女みたいな若気なブラウスがよく似合うし俺も見慣れているし絶対可愛い。
コスプレセックスはしたことないが妄想だけで数回抜けそうだ。
「明日、問い合わせてみるね」
「うん…もし無理でも焦らなくて良いから。出来るだけ楽しく働ける所を選ぶんだ」
「うん、もし採用されたら私が作ったお饅頭、買いに来てね♡」
店中の饅頭買い占めてやるわ、他の奴に食わせたくねぇ。
そんなことが言えるはずもなく、
「あぁ、楽しみだ」
と食器洗い機にカレー皿を収めた。
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